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「何故、遅れた・・・何か弁解する事はあるか」


 咎めるような口調で言う。

 彌眞が口を開こうとすると、素早く余波は手で制した。


「どうせ、言い訳であろう」


 と、目をつりあげ薄ら笑う。


「私は寛大だ・・・過ぎてしまったことはなにも言うまい」


 余波は三人を見下し見渡すと、フンと鼻をならす。


「この連中が鏡を持つ者達とは・・・笑える。実に愉快だ」


 元来、気の短い采乎は、二人に迷惑をかけまいと押し黙って聞いていたが、あまりの一方的で高慢な余波の物言いに我慢の限界に達した。

 顔面に怒りを浮かべ、立ち上がるとつかつかと首座に座る余波の前まで行くと、両手で襟首を掴んでねじりあげる。


 彌眞と十六夜は彼女の暴挙に驚き、慌てて止めに入る。

 采乎を羽交い締めにして、彌眞は余波から離す。

 十六夜は苦しんでむせ返る余波を介抱する。

 余波の青白い顔が一変し、絞められた苦しさと侮辱で真っ赤となる。


「何をするのだ!この女!私は弥奴国の王だぞ!」


「知るか!この青二才。彌眞様たちの話も聞かないで、悪者扱いにして!」


 采乎は羽交い締めされたまま、足をばたつかせて言い放つ。


「我慢ならん」


 余波は足元の鉄剣を右手で持つと、止めに入る十六夜を押し倒し、大きく振りかぶり頭上に持ち上げる。

 采乎は十六夜が倒されたことで、さらに怒りが高まった。

 彌眞は慌てて羽交い締めを離す。

 彼女は余波の振り下ろされた一撃を軽々避けると、足を高々とあげ彼の顔面目掛けて、足の裏で額を蹴りつけた。


 余波はもんどりうって倒れる。

 固まる彌眞と十六夜。

 彼は床にうずくまり、悔しげに床を何度も叩き、憎々し気に采乎を睨む。


「おのれ!」


「申し訳ない」


 彌眞と十六夜は二人の間に割って入り、彼と彼女は余波に頭を下げる。

 余波は何度も首を振り拒絶しながら、堪えていた涙が溢れだす。


「いや、許さぬ」


「彌眞様、十六夜様、こんな身勝手な者に謝る必要などありません」


 采乎は余波の顔を見まいとして、そっぽを向く。


「おのれ、おのれ!」


 余波は涙を流しつつ、鼻水まで垂れていて、彼女を睨みつけている。

 采乎は無視し続け、欠伸をする。

 彼は癪に障り、喚き散らし地団駄を踏む。


 彌眞と十六夜は呆然と見ながら、この男が一国の王であることに戦慄を覚える。

 ひょっとして鏡片を持つ者かと思うと、これから先が真っ暗にみえる。



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