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彌眞は住居群まで来ると、木の茂みに隠れつつ慎重に進んだ。
そこは恐るべき惨状の場と化していて戦慄と怒りを覚えた。
至る所に、傷つき息も絶え絶えの兵士、死体が無数に横たわる。矢の鏃が胸に突き刺さって死にゆく女性、足を鉄戈で刈られて身動きがとれない男性、泣き叫ぶ子どもたち。阿鼻叫喚の世界。
(これが戦・・・なんという)
彌眞はこの現状をどう捉えていいか分からなかった。邪馬台国と魏という巨大な後ろ盾を持つ、安全な伊都国で育った彼にとって、目の前に起こっている出来事は信じられない光景だった。
(クニの存亡をかけた戦というのは、こんなにも凄まじいものなのか)
足の震えが止まらず、身体が重い。
時間の流れが緩やかに感じ、一歩足を進める事すら苦痛に感じる。
彌眞は、この戦がなんであるか見定めるという使命感だけで、クニの中心部へと
一歩ずつ歩く。
ようやくの思いで、集落の中心地にたどり着くと、焼け落ちた住居の影に身を潜ませて辺りの様子をうかがう。
そこには地獄絵図があった。
眼前には白兵戦が繰り広げられている。鉄剣がぶつかり合い、鉄矛が兵士の肉を貫き、鉄戈の一閃する風切り音とともに兵士の首が切られる。
離れた場所では弓兵が火矢を放ち、容赦のない焼き討ちを行っている。
ひたすら逃げまどうクニの民人達。
彌眞は恐ろしくて身体が震え続けながらも、その光景から目を逸らすことはなかった。
(・・・目を逸らすな)
その刹那、彼の耳元に唸りをあげて矢が通り過ぎていく。
矢は通常の三倍の大きさで、次の瞬間には兵士に突き刺さり呻き声をあげて倒れた。
彼は視線を矢の放たれた方を見る。
その姿に驚愕し、この戦の理由が理解できた。
視線の先の人物は、軍の先頭に立ち、大弓を投げ捨て鉄矛に持ちかえ突進していく、蘇奴国王蘇邑の姿だった。
蘇邑の胸元には鏡片があった。
彼が雄叫びをあげると、兵士たちの鬨の声で大地が揺れ、軍勢は突撃を開始した。
次々と同じクニである筈の民が無慈悲に殺されていく。
これは蘇奴国で内乱が起きたのだ。




