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よく見ると人影はどんどん近くなる。
彌眞はその人物が蘇奴入国から世話をしてくれている、給仕の采乎だと分かった。
彼女はこのクニの民の特徴であるがっしりとした体形で、愛嬌のある顔をした中年女性だった。
采乎は息を切らして、彌眞の所まで来ると、ぜーぜーと苦しそうに息継ぎをする。
呼吸を整えて喋ろうとしたが、最初の一言は全く言葉になっていなかった。
「落ち着いて」
彌眞が言うと、采乎は二度三度頷いて、大きく深呼吸すると喋り出した。
「た、大変です。十六夜様が我が王に捕まりました」
しばし彌眞は唖然となった。
采乎は続きを話す。
「王に無断で居館の宝物殿に侵入し、盗みの罪で捕らえられたそうです」
彼女は喋っている内に落ち着いてきた。
彌眞は居館の隣にあった物々しい警備があった建物を思い出す。
「それで」
「王は共犯の者も捕らえると言っていました」
「・・・それは私ですね」
采乎は頷いた。
「あなた様だけでもお逃げなさい」
彌眞は首を振った。
「それはできません。でも何故あなたはそれを私に教えてくれたのですか」
「あなた方は使命をもたれている方、何か理由があってのこと」
采乎はそう言うと快活に笑った。
彌眞もつられて思わず笑う。
彌眞は真顔になると、
「お願いがあります。私を捕らえてください」
采乎はその一言に固まる。
彼は微笑むと、彼女の隣を抜け集落の方へ歩いていく。
采乎は慌てて追いかける。




