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彌眞の表情は相変わらずうかない。
十六夜から逃げるようにして駆けだしたが、知らない場でこれといっていく当てもなく、クニの中を歩きさまよった。
挙句、集落を抜けた田んぼのあぜ道の真ん中で仰向けに倒れ、目をつぶった。
日はすでに暮れ、夜の闇に包まれようとしている。
彼は薄目を開け周りを確認するが、どうでもいいとまた目を閉じる。
彼はらしくない自分自身に苛立ちを感じていた。
(私はどうしたというのだ)
(十六夜とまともに話せないし、彼女の目さえ見れない)
(どうしたらいいんだ)
自暴自棄になりながらも自分に問いかける。
が、すべてはあの夜に凝縮されるのだ。
(私に人を殺せるか)
上半身を起こして、彌眞は自分の両手を見つめる。
薄闇にうっすらと見える自分の両手はあまりに頼りない。
彼は深く溜息をつく。
(それが出来なければ、大切な人を守ることなど出来るはずない・・・それは分かっている)
(じゃあ、何故出来ないのだ)
内なる一人が呟いた。
(それは・・・)
言葉に窮する自分を腹ただしく思う。
(はじめてで人を殺めることを緊張したのか、否、お前は自身の手を汚されたくないのだ)
(・・・)
(お前は運命を背負い進むことなど、所詮出来はしないのだ)
(違う!)
(何が違うのだ。お前得意のただ前だけを見つめるというのか、後ろしか向いていないお前が、それは完全なる逃げだ)
もう一人の自分が執拗に責める。
「違う!」
彌眞は叫ぶと弓を取り、矢をつがえ見えない自分を射抜こうと、弦を引き絞り、振り返った。
矢を放とうとした刹那、彌眞は驚いた。
弓の照準の先には人影が見える。
彼は慌てて弓をおさめる。




