30
夕暮れの紅の景色が空全体を包むと、蘇奴国のクニすべてを覆う。
十六夜は楼閣から、そびえたつ北の大きな山の頂をじっと見ていた。
溜息をつく。
(私は、以前こんなに溜息をついていただろうか)
視線を下へと移すと山の裾野に森がある。懐かしさに目を細めると涙がこみあげてくる。
再び、溜息をつき、そんな自分自身に苦笑いしてしまう。
(私はどうしてしまったんだろう・・・)
十六夜はしばらく俯いてしまう。
ふと、視線を朱に染まる森へうつした時、母の面影が脳裏に浮かんで、ぼろぼろと
涙がでてしまう。
(帰りたい・・・)
彼女はそんな自分にはっとなり、思いを消すように首を何度も振った。
(こんな事じゃ、駄目だ)
眼下に見える蘇奴国をぼーっと眺める。
(そうだ。彌眞がいる)
そう思い直すと、心が少しずつ安らいでいく。
「一人じゃない」
十六夜は呟いた。
(彼もまた悩んでいる)
と、考えると気も楽になっていく。
やぐらの縁から顔をだし、夕暮れの風に身を任せ、目を閉じ瞑想していたら、昂っていた気もすっかり落ち着いた。
すると、彌眞に対して腹が立ってくる。
(私が、落ち込んだのは、彼の態度・・・彌眞の彌眞自身にしか知りえない悩みのせいだ)
と、心の中でケリをつける。
(やっぱり、私がなんとかしなくては)
そう思うと元気がでてくる。
十六夜にある考えが浮かんだ。
「よし!」
気合を高め、眼下の景色を一瞥し、楼閣の階段を降りていく。




