29/108
29
「彌眞、一体どうしたのですか」
十六夜は強い口調で言う。
「別に」
彼女の真っすぐな視線に、彼は目を背ける。
「私から目を離しましたね」
「・・・・・・」
十六夜は意を決して、深呼吸をして言った。
「あの時、なにがあったのですか」
彼女は心に言おうと決めていた事を口に出したる
「・・・あの時とは?」
彌眞はとぼけて言う。が、彼女は話を収めない。
「盗賊に襲われた夜の事です」
「・・・何かありましたか」
「私になにかがあったのではなく、あなたになにかがあったはずです」
「わ、私に何かありましたか」
動揺を隠しながら、彌眞はとぼけ続ける。
「あなたは自分一人の問題として、悩み事を背負いこんでいるようですが、一緒に旅をする私もあなたのその姿を見るのは苦しいのですよ」
「・・・・・・」
「あなたは私が落ち込んでいた時、励ましてくれたじゃないですか。教えてください、あなたの苦しみを」
十六夜は身じろぎもせず、視線を逸らす彌眞の横顔を見つめている。
「今度は私が・・・」
そう言ってくれる彼女の視線を痛いほど彼は感じながら、
「もう少し待ってください。いずれ必ず話しますから」
そう言うと、振り払うように彌眞は駆けだした。
一人残された十六夜は、彼の小さくなる後ろ姿を見ながら、その場に立ち尽くした。




