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うさみすぴんなうとAW  作者: ほすてふ
目からビーム編
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目からビーム初心者 2

 外に居た、というのは若干の誤解を招くかもしれない。

 かつて屋敷だっただろう場所に居た、が正確だろうか。


 私がいた部屋は大きな屋敷の一部だったらしく、その跡が残っていた。


 私の後方だけ。


「いったい何が……?」


 左右及び前方はきれいさっぱり平地になっている。

 視界を遮るほどの高さのものは見渡す限りは存在しないが、ところどころに膝ほどの高さの何かがある。


 後ろを見ると、私が横になっていた寝台があり、さらに後ろには壁が。


 部屋だったものである。


 恐る恐る回り込んでみると、そうやらそれなりの大きさの屋敷だったらしいことがわかったのである。



「あの、どなたか……」


 いませんか、と声を張り上げて呼びかけ……ようとしたところで、私は自分が全裸であることを思い出して口をつぐむ。


 青空の下、裸でいるところを他人に見られるなんて、そんなことになったら大変だ。

 私は両手で口を押え、できるだけ音を立てないようにコソコソと移動した。


 なお、どうやら私は人目をはばかるような技術は持ち合わせていないらしく、音を立てまいとしても普通に足音がしていた。







 屋敷だったものを探してみたところ、衣装棚を発見した。

 中には厚手でしっかりした縫製の桃色に染められた上衣と筒状の下半身を覆う部分が一体化した衣装と、胸から下を覆い、腰で結べるよう帯が縫い付けてある前掛けが二十着ずつ入っていた。

 私の知識は使用人服であるといっていた。

 ほかに女性用の肌着。

 それから頭を覆う形状の仕事用の帽子も。

 外出用の大きなつば広帽子もあったがこれは一つしかなかった。


 同じものを二十着。

 しかもあつらえたように私にぴったりと合う。

 胸、腰回り、肩幅、くるぶしまでの丈と違和感が全くない。


 これはおそらく私のもの、もしくは私のために用意されたものだろう。

 桃色というのは独特のセンスである気がするが。


 ともあれ、そういうことなら話は早い。

 私のためのものであるなら、これを身に着けても文句をいうものはいまい。

 ということですでに身に着けている。


 さらに革製の編み上げ靴を発見したのでこれも履いた。




 そこまですませて改めて、私は周りの様子を調べることにした。

 裸でなくなった以上ためらう理由はない。


「どなたかいらっしゃいませんか」


 声をかけながら歩き回る。


 屋敷は残っている部分以外はさっぱりとなくなっていた。

 足元を見ると元の間取りがわかる。

 ところどころ膝の半分ほどの高さの壁だったと思しきものや扉だったと推測できるものがあった。

 だが、それが分かったところでなんだというのか。

 元台所を見つけて食料を確保できたくらいである。


「でも、あの短い時間でこうも変わるものでしょうか」


 干し芋をかじりながら考える。

 眩しさに苦しんでいた時間はゆっくり千数えるよりは短かったと思う。

 そんな短時間で、室内から青空の下に変わるとは、いったい何が起こったのだろう。


 まさか何か恐ろしいものが現れた? 具体的には思いつかないけれど。

 それとも……思いつかないけれど。


 私は自分の発想の貧困さにがっかりしながら、改めて周りを見る。


「誰もいないようですし、もう少し遠くを探しましょうか」


 前方は見渡す限り平地である。

 屋敷だったもの側には木がたくさん生えている。

 ひとまずは平地側を回ってみよう。


 そう決めた私は、見つけた鞄に着替えと食料を詰め込み、てくてくと歩き出した。




 調べた結果わかったのはここは村で、屋敷はそのはずれにあったこと。

 村は屋敷の半分と同じように村跡と化していたこと。

 各家は地下収納があり、食料がしまってあったこと。

 蜂蜜はおいしいこと。


 生きている人間には遭遇せず。

 つまりは村には私こと目からビーム子を除いてみんないなくなったということになる。


 あの勢いがよく騒がしい男性はどこへ行ったのか?

 村の住人は?

 なぜ私だけ残されているのか?


 多くの謎がある。

 だが、誰もいないということは、私もここを離れるべきだと思った。

 食料はそれなりにあるが、いつかなくなるか傷むだろう。

 生きていくために必要なものは多いが私はそれらをすべて用意できるとは思えない。

 ならば人がいる場所へ行って共同体に所属するべきだ。


 こうして私は旅立った。

 道なりに行けばきっとどこかにつくことだろうと。

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