目からビーム初心者 1
私の名前は目からビーム子。
古い言葉で、「闇を切り裂くきらめく瞳を持った女の子」という意味が込められているらしい。
らしいというのは、私にはある日を境にそれ以前の記憶がないからだ。
正確に言えば、名前の意味は知っている。
にもかかわらず、誰にどういう状況でなぜといったことがまるで覚えていないのだ。
おそらく、記憶を失う前に持っていた知識は残っていて、それらにまつわる思い出などの一切が失われているのではないかと思う。
こうして言葉に不自由しないし、歩き方などの体の動かし方をはじめ普段の生活に不自由することはないのは幸いだ。
そうでなければ、知識だけある状態で生み出されたのかもしれない。
なぜそんな荒唐無稽な話になるかというと、私の始まりの記憶について言及しなければならないだろう。
あれはそう、えーといつのことだっけ。
□■ □■ □■
私が目を覚ましたのは明るい室内で、木材を組み合わせて作られた、すすけた天井がまず目に入った。
硬い寝台に寝かされているようで、ちょっと背中が痛かった。
「クックック……! 目を覚ましたか、目からビーム子よ! いや見ればわかる! 返事はいらぬ!」
室内には私以外にも人がいたらしく、私が目を覚ましたことに気が付いたらしい男性の声が響く。うるさい。
声のする方を見ると、想像通り男性が手のひらを上に向けて手をワキワキさせながら楽しそうに声を出している。
髪は短く切り揃えており、背は高く痩せているわけでも太っているわけでもない。
白く長い外套のような服を前を留めずに身に着けていた。
「こうして目を覚ましたということが成功の証拠よ! やはり俺は天才だった! クックック、フハハハハ、ハーッハッハッハ!!」
一方私はというと、裸であった。
触って確かめたところ、目と鼻と口はあるようだ。髪の毛は肩口程度の長さで紫よりの桃色だ。
私は体を起こして寝台に腰掛け、笑うことに忙しそうな男性に声をかける。
「あの、服とかないですか」
「服ぅ? そんなものは後でいい! それより先に最終確認だ! なに、成功は確定しているが一応な!」
あとでいいだなんてひどい。
しかし、男性の言葉を聞くと、なぜか従わなければならないような気がしてくる。
となると後でいいのだろう。
私は服のことを後回しにして男性に尋ねた。
「最終確認とは?」
「決まっている! 目からビーム子よ、目からビームを出してみろ!」
男性の言葉を聞いた私はその指示に従わなければならない衝動にかられた。
そして、目からビームを出してみろってそんなのどうすればいいのかと考える前に。
視界が強烈な光に覆われた。
うおまぶしっ!
『ハーッハッハッハ! 成功! 成功だ! 目からビーム子が目からビームを出しているぞ! クッソ笑える!』
男性はものすごく楽しそうだ。
しかし私はそれどころじゃない。
ものすごく眩しい。
あまりの眩しさに慌ててしまい、どうしたらいいのかわからなくなり、助けを求めようと私は声が聞こえる方へ顔を向けた。
『あ、こっち向――』
私が顔の向きを変えたところで男性の声が途切れた。
私はますます狼狽する。
なぜなら、目が見えなくて眩しくてどうしたらいいのかわからないという状況で、もはや頼りは男性の声しかなかったのに。
その声が途切れてしまったからだ。
「え、あれ、どこですか?」
眩しくてつらいのを我慢しながら、耳を澄ませてキョロキョロと顔の向きを変える。
何も聞こえない。
「あの、眩しいの。助けてください」
しかしながら返事はなかった。
返事がないということは、男性を頼りにできないということだ。
であるならば、自分でどうにかするしかない。
私は混乱したまま、考えた。
混乱しているのでまるで考えがまとまらない。
もうどうしようもない。
どうしようもないのでだめもとで声に出してみた。止まって止まって眩しいよと念じながら。
「と、止まって眩しいから!」
止まった。
止まったのはいいが、目が見えない。
暗いところから急に明るいところに出たときのようだ。
しばらくの間、手で目を抑えてうずくまっていた。
目の痛みが治まってきたあたりで、手を外して目を開ける。
すると一はぼやけていたが、だんだんと視界がはっきりしてきた。
「おや?」
そして気付く。
先ほどまで室内にいたのに。
今は外に居た。