皇帝初心者とうさみ 16
地底帝国パラウサからの使者が見つかった。
その報告は、真ウーサー六万五千五百三十五世が「今日はそろそろ寝ようかな」と寝室へ向かおうとしていた時だった。ねむい。
月面お餅障壁の展開作業中、作業員に話しかけてきて、お餅を要求してきたのだという。
作業員は月イチゴ一カゴと交換で食用のお餅を提供したらしい。
月イチゴは主に月の海に生えるつる植物の一種で、普段は他の植物のように銀色だが、不定期に赤く変色して大繁殖し、月全体を赤く染めることがある。
果実もだが、つるや葉もおいしいのでウサギたちが大喜びで食べるため、すぐに排除される。
銀色の状態でも大変美味であり、月イチゴ目的で危険な月の海へ進入して行方不明になるウサギも後を絶たない。
そんなものをカゴいっぱい集めたというその使者はなかなかに生存能力が高いようである。
ぷ。(予測地点とずいぶん違うようだが)
発見された場所は初期に観測され、算出された地点から大きくずれていた。
これでは捜索の手が届かないのも無理はない。
たしたし。(月イチゴを食べて生き延びていたと考えれば、移動を続けていると思われます)
ぷ。(接触した者はその後の予定などを聞いていないのだな?)
ぷー。(残念ながら。あ、それとこれ上納だそうで)
側近が差し出したのは銀色のイチゴが入ったカゴだった。
竹を編んで作られたもので、ウサギを模した装飾が施されている。
その半分ほどがイチゴで埋まっていた。
ふよん。(うむ、よし、皆で分けよ……お餅に練り込んでもいいかもしれんな)
真ウーサー六万五千五百三十五世はカゴからイチゴを一粒取り出し、口にした。
あまいすっぱいおいしい。
そしてカゴを側近に改めて与えた。
ぷ。(ありがたく)
厳かに受け取り頭の上に浮かべる側近。
それを見て真ウーサー六万五千五百三十五世は大いに満足した。皇帝っぽいふふん。
ひとしきり体を揺らして満足し。
ぷ。(さてと。この機に確保しなければどこに行くかわからなくなるか)
改めて、真ウーサー六万五千五百三十五世は決断した。
上空からの捜索だけではなく、地表へ要員を多数おろし、数の力で一気に見つけ出そうと。
こうして速やかに精鋭による部隊が編成され、月の海へと投入された。
□■ □■ □■
「あんこが欲しい……」
うさみはイチゴ大福を作ろうとして、早々に頓挫していた。
ウサギさんにもらったお餅はそのまま食べてもおいしかった。
ほのかな甘みとお餅特有の、のびーる食感。
素晴らしい食材である。
そう、食材だ。
そのまま食べるよりも、一手間加えたほうがおいしい。
お醤油、砂糖醤油、海苔、きな粉、あんこ。
雑煮、ぜんざい、ピザ、カレー。
優秀な食材がゆえに食べ方もたくさんあるのである。
その中でイチゴ大福はなかなかに特別な食べ方だ。
砂糖を混ぜ込んだお餅を使うのがより良い。砂糖がないが。もっとも、月のお餅ならそのままでも十分イケる。
小豆と砂糖であんこを作ることができる。小豆と砂糖がないが。
新鮮ジューシーなイチゴ。銀色だけどある。
あんこの甘みとイチゴの酸味が合わさって最強に見える。
しかし現状では再現できなかった。あんこ。
「豆生えてないかなあ豆」
そんなわけであきらめきれないうさみは探索範囲を拡大することに決めた。
竹林には竹以外の植物があまり生えないようなのでそちら方面は除外。
位置を見失わないために、ひとまず竹林と黒月桂樹の森の境に沿って移動する。
今までの探索範囲を大きく外すため思い切った距離を移動して簡易拠点を構築。
そこを中心に探索をする。
しかし、残念なことにしばらく探しても、新たな発見はなかった。
考えてみれば、黒月桂樹か竹林を抜けて新しい植生の場所を目指すべきだったのかもしれない。
こうなるとあんこである。
口の中あんこ。あんこ食べないと満足できない体になってしまったのだ。
そんなわけでそろそろ帰ろうかなと思い、一旦最初の拠点へ向かった。
荷物を整理して月面帝国ルナパラウサさんへお土産を用意するためだ。
そして、その途中で。
何者かが交戦するところに行きあったのだった。