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うさみすぴんなうとAW  作者: ほすてふ
皇帝編

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皇帝初心者とうさみ 15

 うさみが森に入って十日目。


 そろそろ環境にも慣れてきた。

 この拠点を中心に歩いていける範囲はざっと調べ終わった。

 カエルの食糧と思しき虫(やっぱり黒い)とか新しい植物(やっぱり銀・白金っぽい色)とか、それなりに収穫はあったが、これはと目を見張るようなものは残念ながら遭遇しなかった。


 今は黒月桂樹側を探索中、休憩として枝に座って足をぶらぶらさせながら月光草を煎じたお茶を飲んでいた。


 なにげなく上を見ると大勢のウサギさんたちが上空にお餅をペタリペタリと張り付けていた。


「お、おお?」


 そういえば。


 うさみは月にやってきた目的を思い出した。



 お餅を! 食べる!



 月のお餅を食べたくなったから地下帝国パラウサ経由ではるばる月までやってきたのである。

 であるからには、ここを逃すわけにはいかない。


 うさみは収穫を入れるために作った、イチゴでいっぱいのカゴをひっつかんで、早速上空へ向かって黒月桂樹を登りだした。

 テンポよく枝を、葉っぱをを足掛かりに跳ね続け、木の先端まで到着。

 そこからはテンポよく空中を足掛かりに跳ね続けて、ウサギさんのところへと辿り着いた。


 しかし、ウサギさんたちは一生懸命お仕事をしているようで、うさみの方へ耳を向けはするものの、一顧だにせず。


 お餅を運んできて、貼り付けて帰る。お餅を運んできて、貼り付けて帰る。

 お餅を運んできて、貼り付けて帰る。お餅を運んできて、貼り付けて帰る。


 無数のウサギさんたちによって途切れなく運ばれてくるお餅。

 空が白いドームで、すこしずつ、すこしずつおおわれていく。


 お仕事頑張ってる子の邪魔しちゃ悪いかなあ。

 うさみはそんなことも思ったが、でもまあせっかくなので声だけでもかけてみることにする。


「こんにちわ~」


 近くを跳ねるウサギさんがピクりと耳を動かし。

 しかし足を止めることなく最前線までお餅を運んで。

 帰ってきてうさみの前までやってきた。


 くりくりとした目でうさみを見つめ、小首をかしげるウサギさん。


 十日ぶりに見たけれど。ウサギさんはやっぱりかわいいよね。

 と思いながら、うさみはわざわざ寄ってきてくれたウサギさんに話しかけた。



「食べる用のお餅欲しいんだけど、これと交換できない?」


 そう言って差し出したのはもってきたイチゴのカゴである。

 容量的には一抱えほど。働いているウサギさん全員に配るにはまるで足りない。

 しかしひとり分だと多いだろう。

 一家族分といったところか。


 ウサギさんはそれを見て、ぷ。と鳴いた。

 しかしうさみには何を言いたいのかわからない。


 大体において地上のウサギさんは難しいことを考えておらず、「なでれ」とか、「おなかすいた」とか、「あっちがたべたい」とかならうさみもわかるのだが。

 ちょっと込み入ったことを話そうと思うと言葉を話す種族に進化した、具体的には白と黒の世話役の子を頼ってしまう。

 逆に、こちらから何か伝えたいときは、ウサギさんの方でうさみの言葉を理解してくれる(なお従うとは限らない)ので……もしかしたら理解力でウサギさんに負けているのでは。


「【心の中を聞く魔法】」


 ともあれ魔法で解決した。

 どこかの使い魔の魔法のように意思疎通させてしまうと意志薄弱な方が上書きされてしまう危険があるのでうさみはあまり使わない。

 この【心の中を聞く魔法】は表面的な思考をうさみが理解できるよう言語化するだけなのでその心配はない。


『イチゴ食べたいお仕事あるよお餅持ってくるよここにくるよ食べるお餅イチゴ交換』

「えと、ここで待ってたらいい?」


 尋ねるうさみに頷くウサギさん。


「わかったよ。あ、せっかくだしどうぞ」


 うさみがカゴからイチゴを一粒差し出すと、ウサギさんが直接かぶりつく。

 目を細めるウサギさん。


『ここにいて!』


 すぐに食べきったウサギさん。

 耳を振って跳び出していく。

 あっという間に跳んで行くウサギさんにばいばーいとうさみは手振って。


 そして帰ってくるまで他のウサギさんの仕事を眺めていようかと周りを見ると。



 めっちゃ見られていた。



「あー、イチゴ?」


 こくこく頷くウサギさんたち。


「か、数に限りがございます」


 ウサギさんたちの耳が、ぺたんと垂れた。


「ごめんね!」


 その後、予想してたよりはるかに早く帰ってきたウサギさんと、お餅イチゴトレードを完遂した。

 うさみはお餅を山盛りもらってホクホクだったが、ウサギさんは他のウサギさんに嫉妬の視線を受けながら、頭上にイチゴのカゴを浮かべて去っていった。


 立ち去る直前に、周りをぐるりと見回して、ぷ。と一鳴きしていたのがなかなか印象的だった。


 あれで周りの視線にこもる感情が爆発的に増えてたんだけど大丈夫かな。

 という心配は、お餅をおいしくいただいてすっかり忘れてしまったうさみであった。

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