皇帝初心者とうさみ 14
三日が過ぎた。
月面帝国ルナパラウサ、中央大広場。
大勢の月ウサギが集まる中、真ウーサー六万五千五百三十五世はお餅をついていた。
今回は大事な催しのひとつである。
半月の儀という恒例行事で、ここでお餅をつくのが皇帝がなすべき役割の一つなのである。
しかし、そんななかでも真ウーサー六万五千五百三十五世は今後のことを検討していた。
例の使者はいまだ見つかっていない。
安全を鑑みて上空偵察を送っているが、さすがに月の海は広すぎる。
言ってみれば月の砂漠で一粒のもち米を探すようなもの。
加えて、危険な生物が住み着いている。
推定落下地点を中心にして偵察範囲を広げているが、それらしい痕跡は残っておらず、危険な地表へ部隊を下ろすかどうかという判断を迫られていた。
感情でいえば使者なんかよりも臣下の方が大事である。
だが、地上からの久方ぶりの使者としてやってきた異種族というのは黙殺しがたい。
できることなら地上側に連絡を取って善後策を相談したいところ、というわけで通信を試してみた。
しかし、転送装置は稼働しているのに通信装置がつながらない。
通信装置が存在する帝国中枢部を稼働させているならばいずれも運用で来ていてしかるべきなのだが。
おそらくは転送装置とともに技術が忘れ去られており、なにかのきっかけで転送装置のみが起動させられたのだろうという推測が立ったが、そんな推測など、事態の解決の役は立たない。
こちらから転送装置で地上へ向かうことは古くからの盟約で固く禁じられている。
それでも、非常時には許されるので、今回の状況を非常時と定義するかどうかという論点になるのだが。
こちらで打てる手が残っている限り非常時とは言えないと結論付けられた。
とはいえ、こうして何度も日をまたぐともう命を失っている可能性が上がっていく。
そもそも彼の使者がこちらの捜索に対してどう反応するかという懸念もあるのだ。
なんせ攻撃してしまっている。
生きていてもこちらを敵として認識していたら逃げたり攻撃してくるだろう。
そして敵と認識されている可能性は高い。
やはり切り上げるべきか。
とはいえせめて一周期は探す姿勢を見せなければ、示しがつかないだろう。
見栄や体面のために危険を冒すことになる臣下を考えると大変心苦しい。
とはいえ、皇帝には見栄や体面も重要なのだ。
皇帝はすなわち帝国なのだから。
真ウーサー六万五千五百三十五世はつき終わったお餅を上空へと打ち上げる。
お餅は上空の結界までたどり着くと拡散し、ペタリと張り付いた。
これで帝国上空の半分がお餅によって覆われたことになる。
沸きあがる歓声。
臣下の月ウサギたちが足を踏み鳴らして成功を祝う。張り切りすぎではと思うほどに盛り上がっていた。
あるいは、早々に失敗し挽回できていない新米皇帝を励まそうと誰かが気を使ったのかもしれない。
そんな想像をしてしまったのは、真ウーサー六万五千五百三十五世の弱気ゆえか。
いけない。皇帝はもっと堂々としていなければ。
真ウーサー六万五千五百三十五世は臣下の歓声にこたえ大きく体を揺らす。
誰よりも立派な体を包む白金色の毛並みが大きく波打つその姿は皇帝にふさわしいものだった。
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「よっし完成。竹細工のウサギさん、これ結構うまくない? えっへへ」
そのころうさみはのんびりサバイバルライフを楽しんでいた。
居室として選んだ竹をさらに開発して三階分の部屋をつくり、さらに隣の竹へ橋を渡してそちらにも部屋を作った。
寝室、食料貯蔵庫、その他倉庫、浴室という振り分けで、居間と応接室を作るかどうか検討中だ。
ベッドと机、椅子を木材と竹を利用して組み上げた。
最初は一枚板で作ったのだけれど、入り口を通らなかったので断念し、細く整形した材料を持ち込んで編む形で作ったのだが、これが意外とあたりだった。
特にベッドが、適度にスプリングの代わりになったのだ。
板の上に寝るよりも寝心地がよかった。
なお一枚板は扉に再利用した。
それからもちろんというか、散策用に籠を作った。
やはり入れ物があるというのは便利である。手で持てる量は限りがあるのだ。
昔の人は偉いと思いました。うさみ。
こういった細工や大工はこの世界に来てからの趣味だけれど、周期的にやりたくなるというか、必要があってものを作り出すとついつい熱中したり拘ってしまう。
たとえば完成した机に飾り気がなくて寂しいなとか、ふちのところ角ばってると危ないかなとか思ってしまったら。
気が付くと時間がたっており机の脚や側面に竜が彫り上げられていたり。
机の上に竹細工で作ったウサギさんの置物が置かれていたりするのである。
楽しい。
一人暮らしペット(のようなもの)付きで自由に暮らしているものの、やはり日々のよしなしごととは違った楽しみがある。
畑の世話はもう日常で苦ではないけれど、手を広げすぎているところもあるので追われている感覚もちょっとある。
予定を消化していく日常もいいが、こうして思い付きだけで動く非日常のもたまにはいいものだ。
とりあえず、今後のことを考えて必要なMPをためてはいる。
そのことが逆に、MPがたまるまでだからー、と適当な言い訳となり、状況を楽しむ勢いに油を注いで加速せていたのであった。




