皇帝初心者とうさみ 13
「タケノコおいしい」
うさみが探索を進めていると、竹林に行き当たった。
色は白金色で、淡く光っている。
大きさは黒月桂樹にも劣らない大きなもので、節の中に人が何人か入れそうである。
黒月桂樹を寄せ付けず、群生している竹を見て、うさみはそういえば竹ってむしろ地下が本体なんだっけと思い出す。
思い出しついでにタケノコを探した。
あった。
掘った。
食べた。
取れたてのタケノコ、その穂先のやわこいところを切り出して、スライスしていただく。
特有の食感と、うっすらとした甘み。大変よろしい。
採れたてならではの食べ方だ。
時間を置くとえぐみが出て生ではつらい。
月光草食べるのとそう変わらないのでうさみは食べられなくもないけれど。
逆説的に月光草よりおいしいということだ。すばらしい。
いやそんな言い訳しなくても大変おいしいのだけども。
「醤油かからし味噌かワサビがあったらなあ」
ないものは仕方あるまい。
ああ、おうちに帰れたらなあ。
うさみはちょっと家が恋しくなった。
しかしそれはそれとして。
「ここなら拠点にちょうどいいかな」
竹林と、黒月桂樹の森の境目。
森と、竹林の産物両方の恩恵を受けることができる場所。
腰を据えて探索しようと思うなら拠点が必要。
その前提なら悪くない場所だ。
水場があればなおよしだけれども、ここまで川や湖に行き当たることがなかったし、であれば仮ということでこの地点でいいだろう。
水は魔法で用意すればいい。
巨大なカニを蒸し上げるほどの量を月で用意するのは大変だけれど、うさみ自身が使う程度ならそこまで負担ではない。
もっともそれを言うなら他のものも魔法で用意すればいいわけだけれど。
衣食住、やろうと思えばすべて魔法で賄うことは不可能ではない。
そうしないのは、言ってしまえば趣味である。
自分以外のものを感じなければ生きている実感を得られない。
魔法で生み出したものはすべて自分の思った通りのものになる。
なってしまう。
魔法研究に没入しているときとかなら気にならないけれど、普段のテンションだとやはり意外性が介入する余地がほしいところ。
もちろんMPの問題もある。
【宇宙ばりあーの魔法】の維持は絶対として、そのほかに限られたリソースをどう使うかは、いつだって悩ましい問題なのである。
うさみは地上での生活を基本としているため、月でバランスを考えるのもある種新鮮だった。
まあ、何年もいるつもりはないがちょっといつもと違う生活をエンジョイするのもありじゃない?
そんなことを考えたらば、ここを拠点とするのは、悪くないどころか、いい考えではないかと思えた。
思えちゃったらしかたがない。
うさみは早速、近場でできるだけ大きな竹を探し、周りに変なものや怪しいものがないのを確認して、よしと一人頷くと、跳んだ。
地面から節まで跳んで、節から節まで跳んで、節から節まで跳んで、節から節まで跳んで、節から節まで跳んだ。
下を見ると地面が遠い。節一つがうさみの身長の十倍以上ある。
とりあえずここまで登ればカニもカエルも届くまい。
ということで竹に穴をあける。
うさみが通れる程度の穴があればいい。
何かの間違いでカエルがやってきて通れちゃうと嫌なので気を使う。
魔法を使って竹の繊維の隙間を拡大する。
穴の大きさはうさみの身長よりちょっと高いくらいでいいだろう。
完了。
厚さ一メートル近い竹の側面に、裂けるように穴が開いていた。
竹の大きさからすれば小さいものだが、うさみが出入りするには十分だ。いっそちょっとした通路に見える。ちょっとした。
内部を除くと、直系十メートルくらいの円形の部屋が広がっていた。竹の節の部分である。
中に入って一回り。真ん中でぴょんぴょん跳ねて強度を確認。
よしよしと一人頷いた。
そして入り口へ振り向く。
入り口は開きっぱなしである。
「……扉忘れてた」
なんてことだろうか。
婦女子の部屋に扉もないとか。
繊維を分けるんじゃなくて切り出してそのまま扉として使えばよかったのでは。
気が付くのはいつもあとから。
後悔先に立たずとはこのことだ。
「まあ別に扉作ればいいか」
やってしまったのは仕方がない。
せっかくなので扉は黒月桂樹を使おう。
それから家具や籠も作りたいところだ。
椅子と机、それに棚。
箪笥も欲しいよね。服増やさないと。
あとはお風呂どうしようかな。
うさみの頭の中で改装計画がどんどん進んでいく。
「よーし」
すっかりやる気になったうさみはさっそく材料を集めに旅立った。