皇帝初心者とうさみ 11
十メートル級のカニがいた。
じゅるり。
うさみはカニが好きである。
シンプルに蒸したものが好みだけれど、焼いてもいいし茹でてもいい。
あの触感と風味、濃厚な味わいがたまらない。
身をほじくって食べるのも楽しい。
酢の物に入れてもいいし、カニ玉にするのも好き。
ああ、寒いときはカニ味噌汁なんかいいよね。あったまる。ニンジンとおネギと大根と。
炊き込みご飯にするのもいい。いつものご飯がちょっと贅沢になる。
揚げるのもいい。
爪のところをフライにして、揚げたてをぱくり。じゅわぁと出てくるうまみをハフハフしながらいただくのだ。
揚げ物といえばカニクリームコロッケ。
みんな大好きコロッケとホワイトソース。そこにカニが入るんだから無敵である。
ホワイトソース?
それなら味噌を取った後の甲羅でグラタンを作るのはどうだろう。
あとはやっぱり鍋!
普通に鍋やるのももちろんいいけど、カニしゃぶ、カニすきという手もある。
ああん、どんな食べ方でもいいよねカニ。
品種改良とかしてるわけでもないのに天然であんなおいしい生き物がいるんだから世界は素晴らしいと思いました。うさみ。
じゅるり。
目の前に居るカニは懐かしに地球時代のタラバガニによく似ており、十メートルを超えるだろう大きさである。
それでも周りの木と比べたらちっちゃいものだが、うさみと比べると八うさみを超えるわけである。
ハサミだけでもうさみよりでかいので、これどれだけ身が詰まっているのだろうか。
じゅるり。
色は焦げ茶色で、これは黒月桂樹の幹の色と似ている。
この森は保護色が多いとうさみは思った。
それはつまり、この大きさのカニをも捕食する者がいるということではないか。
じゅるり。
まあそんなことより、問題はこの大きなカニを蒸すための設備がないことだろうか。
多分探せば材料は手に入るだろう。
木はたくさんあるのでこれを使えばでっかい蒸篭っぽいものは作ることができるんじゃないかなどうかな。
それから熱は魔法でなんとかするとして水が足りない。
月面帝国の版図までたどり着けば……いやそれが叶うなら設備も貸してもらえばいいだろう。
あ、でもそういえば攻撃されたんだっけ。その問題もあったなあ。
……じゃなくて。
うさみはハサミに捕らえられたカエルを見た。
偶然だろうか、カエルもこちらを見ていて目が合った。ような気がした。
うさみが、びしっ、と敬礼すると、カエルは目が合ったまま、カニの口元へ運ばれていった。
そのあと、さすがに女の子として直視するにははばかられる光景が繰り広げられたので、うさみはそっと視線を外した。
うさみは改めて大事なことの検討を続ける。
さて、どうやったらカニを食べられるだろうか。
仮に調理までうまくいくとしても、お残しするのはうさみ的にアウトである。
大きすぎるカニ。
さすがにうさみ一人のお腹の中に入りきらない。
高さが八倍以上ということは、ものっすごい雑に考えて体積は五百十二倍以上ということで、そんなもの食べきれるわけがないのである。
仮にあのハサミだけ、あるいは足の一本だけでも一度に食べきるのは無理だろう。
うさみはフードファイターではないのだ。
こうなるとバスケットがなくなったのが悔やまれる。
あれがあれば持って帰ることができるのだけれど。
となると。
「おすそわけ、かな!」
そう、一人で食べられないならみんなで食べればいいのである!
「って誰にあげるのさ」
拳をぐっと握り突き上げていたうさみは、そっと腕を下ろしてセルフでツッコんだ。
こうしてうさみは正気に戻った。
そして近くに生えていた月光草を摘んで食べた。マズかったので肩を落とした。
最近野菜もおいしいし粗食からは程遠い生活を送っていたので草オンリーは寂しかった。
そこに好物のカニが現れたのでつい妄想がはかどってしまったのである。
「ああ、カニよさらば」
普通に考えたらカエルが犠牲になってくれてる間にさっさと立ち去るべきである。
うさみは普通に考えてその場を後にした。
普通に考えてカニの食べ方を検討しながら。
またくるね。
じゅるり。
書いててカニ食べたくなりました。




