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使い魔?うさみのご主人様 1

召喚初心者とうさみの続きです

 メルエール明月男爵令嬢。

 これがメルエールの正式な呼称である。


 王立魔術学院中等部に所属している。

 同級生の中での立ち位置は最大限贔屓目に見て中の下。


 学院の中等部には、男爵以上の貴族の子女に限らず、騎士や、平民の優秀なものが所属しており、実力と実家の権威と合わせて複雑な力関係が存在している。

 なかには派閥とかあって中等部から編入した者にとっては複雑怪奇な社会の縮図となっている。


 基本的には幼少のころから高度な教育を受け、初等部から通う貴族の階級に比例して実力も高くなる。

 一方で、上級の貴族は数が少ないので、下級でもまともな貴族であれば学内では総合的にも上位の立場でいることができる。


 はずなのだが。


 メルエールは中の下。

 貴族からは浮いており、騎士、平民からは敬遠されていた。


 理由はいくつかある。

 そもそも明月家が悪名持ちで貴族社会でやや孤立気味であること。

 同じ理由で縁故が弱いこと。

 メルエールが中等部からの編入組であること。

 魔術の実力が劣っていること。初歩である使い魔召喚の儀式に二度(実は三度)失敗するほどに。


 元をたどれば実家の都合に行きつくのだが、世間の風はそんなこと斟酌してくれない。

 友人らしい友人もいない。

 突っかかってくる相手はいる。


 貴族であれば身の回りの世話をさせるために召使を寮に同伴することが多いのだが、これもつれていない。理由はお金。


 実力も将来性も後ろ盾も現金もない。

 今後の活躍をお祈りします。





「つまり、ぼっちなんだね」

「そ、そんなことはあるけれど。でもごまかすのには都合がいいでしょう」

「そうですね。まあその、仲良くしましょう」


 物事をいいようにとらえる前向きさを持っているメルエールはいい子だなあ。目が泳いでなければ。

 うさみは思わず丁寧語になった。その目はやさしかった。


 メルエールは見上げる視線なのに見下げられてるような気がしてイラっとしたので、ひっぱたこうとしたが空振りした。また微妙に届かなかった。なぜだ。





 メルエールとうさみは今後について話していた。


 うさみの要求は三食昼寝付き、あったかいお布団、雨風をしのげる宿。

 適当なところで解放すること、その際問題なく去れるように手配すること。

 ついでにあんたじゃなくて名前で呼んで。

 その他思いついたら都度伝える。

 というものだった。


 対するメルエールの回答は、待遇については努力目標とし、メルエール自身よりもよい待遇は無理。また、使い魔を演じることが優先され、待遇その他はそれに準ずる範囲であること。

 解放については了承。時期については双方の了解をもって決めること。

 メルちゃん禁止。

 その他については話は聞くが無理なものは無理。


「三食とか昼寝付きとか贅沢すぎるでしょ」

「夜寒かったから、あったかい寝床は譲れないしやっぱり朝昼晩食べたいんですけど」


 などなど白熱した労使交渉が行われた。

 途中で使い魔を演じるために必要な情報、メルエールをとりまく状況だとか、使い魔の扱いなどの話もした。

 逆にうさみが何をできるのかという話も。


「あんた今まで何して暮らしてたの?」

「だから名前で呼ぼうよ。畑耕したり薬草とったりしてたよ」

「なにそれ農民か!」

「ああうん、農民だよ」


 エルフ独特の技術など持っていないかと思ったが、農民か。

 農民かぁ……。


 メルエールはこのエルフの女児が特異な技術やら独特の才能などでは役に立ちそうにないものと認識した。

 実家に戻れば労働力の足しになるかもしれないが、貴族が使い魔を一農民のように扱うのも普通ではない。

 主の仕事を手伝ったり偵察や連絡、あるいは護衛として使うのが通常だ。

 主が農民ならともかく、メルエールは貴族令嬢である。

 そもそも魔術学院での振る舞いに関わることである。長期休みもまだ先のことだし。


「精霊魔術は使える?」

「せいれいまじゅつ? 使えないかな」


 エルフ独自の技術といえばやはり精霊魔術であろう。

 一縷の望みをかけて念のためにきいてみたが。

 使えないとは。使えねー。


 技術も魔術もダメとなると、もうただの子供である。

 ごまかすとか発想するあたり悪知恵は働くようだが。

 まあ、使い方はおいおい考えるとして、ばれないようにすることを優先しよう。

 メルエールがそう結論付けようとしたところで。


「でも大体のことは練習すればできると思うよ」


 と言い出した。

 何こいつ。そんな自信あるの? 天才とかそういう類なの? と思ってしまった。

 メルエールは自身のことを凡才かそれ未満であると自覚しているので、さも当然といった態度でそんなことを言い出したうさみに対して苛立ちつつも、ちょっと期待したのだが。


「十年練習すれば大体のことは一人前になれるし百年がんばれば一流くらいには届くよね」

「……これだから長生きな種族は……」


 時間感覚が違った。





 最終的に、基本的には使い魔としてメルエールの指示に従うこと、あとは高度な柔軟性を保ちつつ臨機応変に対応するこというとで合意したときにはもう夕方だった。

 寮の食堂で使い魔に食事をとらせるのは事前の申請が必要だったのを忘れていたため、一人分を部屋に持ちこんで二人で食べた。


「メルちゃんと同じ待遇までいいなら半分もらっていいよね」

「『メルちゃん』はやめなさいってば。ああっ取りすぎよ!? メルエール様かご主人様と呼びなさい」

「これあんまりおいしくないね」

「あんた文句言うなら食べなくてもいいわよ」

「『あんた』も禁止でしょーメルちゃん様」


 メルちゃん様は久しぶりにしょうもないことを言い合いながらにぎやかに食事をした。

 そしてその日も一緒に寝た。

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