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皇帝初心者とうさみ 8

 地底帝国皇帝から月面帝国皇帝への親書(抄訳)


 ご無沙汰してます。お元気ですか?

 この度、封印されていた転送装置が発見されましたので手紙を書きます。

 地上は現在、今までになく安定しています。

 この手紙を持たせたものがなかなかに良い知恵を出すのです。

 新たな視点の重要さを改めて認識しました。

 そこで使者として送ります。

 変な奴ですが悪い奴ではありませんのでよしなに。


 さて、こちらでは長く接点が失われている間に両国についての歴史、情報に欠損が出ています。よろしければ必要な情報を照らし合わせたいと思うのですがいかがでしょうか。

 新たな視点を得ることができるかと思います。

 今後の交流についても合わせてご相談させてください。


 お野菜はおいしいのでぜひ召し上がってくださいね。それでは。






 □■ □■ □■







 真ウーサー六万五千五百三十五世は報告に一通り目を通して、側近に尋ねた。


 ぷ。(これは間違っていないな?)


 たしたし。(古語でしたので翻訳に若干手間取りましたが要点を外してはいないでしょう)


 側近のウサギが足で地面をたたいて答える。

 それを見た真ウーサー六万五千五百三十五世は、仕事にケチをつけてしまったかと反省し、誤解が生まれていたなら解消するべく口を開く。


 ぷ。(いや、思ってもみなかったことが書いてあるのでな)


 ぷ。たしたし。(わかります。使者を他種族に任せるなどと。伝説の虹色ニンジンは美味でしたが)


ぷ。(うむ、大地に還るかとも思える美味さであった)


 最上級の月面ニンジンと比べても遜色ないどころか、ウサギなら誰に尋ねても虹色ニンジンに鼻を向けることだろう。そう思わせるほどの差があった。

 根茎の芳醇な甘みと歯ごたえ、また葉の部分の繊維質も合間にかじることでさらにうまさが引き立つ。まさに究極のニンジンといってよいだろう。

 ついでに言えば月面人参と違って逃げたり反撃してこないのもよい。


 そんな素晴らしい品を結構な量、また、それ以外にも大量の野菜を持ち込み。



 皆の前で炸裂させた。



 あの行動が一体何を目的としたものなのか、真ウーサー六万五千五百三十五世を含む月面帝国ルナパラウサの頭脳は理解できなかった。


 攻撃を受けたことに対する反撃と見るのが妥当と思われたが、それにしても野菜を使う意味を計りかねた。

 質量兵器としてならもっとふさわしいものはいくらでもある。

 毒性も確認したが問題なし。

 それどころか砕けたり潰れたものはともかく、野菜の品質自体は非常に高いものだった。


 殺傷が目的でないならば精神攻撃のたぐいだろうか。

 地上の珍しい野菜を目の前で踏みにじる。

 それならば効果がないとは言わない。

 だとするとどういう意図があるか。

 宣戦布告?

 捨て駒だとすれば異種族を派遣してきた理由も、同族を危険な場所へ送り込むのを嫌ったのだとすれば説明がつく。

 防衛機構を突破してきた理由も……。


 いや、もしそうなら気密隔壁や迷路の隠し通路などの機密を握っているということをこちらに知らせるような真似をするのはおかしい。

 いやいや、それはつまり、もっと重要な機密まで握っているという脅しを兼ねているのでは。



 などなど、推測ばかりが並ぶが、納得のいく解釈には至らなかったのだった。

 さらに本人を確保できなかったことも懸念であり、ひとまずその調査にリソースを割いて、情報記録媒体の解析を待っていたわけで。



 ぷ。(文面をそのまま受け取ると友好を求めているように思えるが)


 ぷー。(そうですな。他に、地下帝国の現状についてのデータも添付されておりました)


 真ウーサー六万五千五百三十五世はふむ、と体を揺らし。


 あっれもしかしてやらかしてないか? と自問した。


 答えは「たぶんそんなかんじ」と返ってきた。


 真ウーサー六万五千五百三十五世の垂れた耳が広がり呼吸が荒くなる。



 たしたし。(陛下、いかがいたしましょうか)


 側近が指示を求めてくる。


 ものすごくなかったことにしたい。

 そうだ、転送装置を破壊してしまうのはどうだろう。


 ……いやいやいやそんなわけにはいかない。

 帝国の重要な財産であり替えの利かない施設である。

 破壊などしてはそっちの方が皇帝としての名を貶めることになるだろう。


 向き合うしかない。


 真ウーサー六万五千五百三十五世は即位早々に発生した厄介ごとを、自ら更にややこしくしてしまったことを思い、耳をひくつかせた。

 しかし、それでも側近の前では堂々と、使者の異種族を丁重に招待するように指示を出すのだった。

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