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皇帝初心者とうさみ 5

「こんにちわー! お餅分けてもらいに来ました。あ、これおみやげです」


 うさみはエレベータ坑から跳び出してふわりと着地、そのまま挨拶をしながら滑らかな動きで手元のバスケットからニンジンを取り出した。


 ドサドサッ。


 うさみの斜め前へ左右に分けて、虹色に輝く(・・・・・・)ニンジンが、葉っぱ付きで出現し、山積みにされる。

 それぞれがうさみの体重ほどはある。

 決して大量というわけではないが、どう見てもバスケットに入りきらない量ではあった。


 ざわり。


 緊迫していた空気がざわついて、弛緩とまではいわないが困惑したものへと変わる。

 そこでうさみは改めてぐるりとあたりを見回す。


 エレベータ前は武装したウサギさんに包囲されていた。

 白金色の毛皮をした五十センチほどの毛玉がざっと百。

 それぞれの周りにはやはり五十センチほどの長さの棒がふよふよと浮いて、先端がうさみへと向けられている。


 さらのその奥。


 三メートルはあろうかという大きさの、たれ耳のウサギさんが鎮座していた。

 皇帝月兎という種族のウサギさんであり、彼こそが月面の主、皇帝陛下であると、うさみは知っていた。


 わざわざ現場に出張るのは珍しいなと、うさみが思った次の瞬間。


 皇帝陛下がその場で跳ねて、ズダンと床を踏み鳴らした。


 すると停滞していた空気が引き締まり。


 ウサギさんの周りで浮いている棒から、うさみへ向けて一斉に光が走った。


 うさみは避けた。


「え」


 と声を漏らしながら。


 完全に油断していた。

 これまでの経験から、ウサギさんはニンジンを与えておけば喜んでくれる生き物だという先入観にとらわれていた。


 あの人間の食うものとは思えない色彩のニンジンは月のウサギさんからすると伝説の一品である。

 地上でもめったに手に入らないそれを、うさみが九生くらいかけて栽培法を見つけ出し、量産したものである。

 これを出せば、ウサギさんは好意的になるものだ、という思い込み。


 それは、実際に今までそれでどうにかなっていたこと。

 それで、ウサギさんを見切ったつもりになっていたこと。

 そして、毎回同じではないと知りつつも、同じ対応でいいやとウサギさんに対して雑になっていたこと。


 ウサギさんは半分身内扱いしていたことは否めない。

 身内に対しては良くも悪くも判断基準が緩くなる。

 その結果が、いまだ友好を築いていない相手に対して予断を生んで油断した。


 うさみが今まで繰り返した人生が、悪いほうに出てしまったのであった。


 そしてその結果。



「みんな逃げてぇ!?」



 うさみはウサギさんたちに向かって叫んだ。


 うさみは光線による一斉射をかろうじて回避できた。

 しかし、バスケットに攻撃がかすめてしまったのである。


 このバスケットはだいぶ前に趣味の竹細工で作った【たくさん入るバスケット】という魔道具である。

 うさみは今の服装と合わせてピクニックセットと名付けている。

 “たくさん入る”の名の通り、見た目以上にものを入れることができる便利な品だ。

 内部にはたくさんの荷物が入っているのだ。

 おみやげはニンジンふた抱えぽっちではなく、うさみ畑で採れる野菜をこれでもかと詰め込んである。

 ウサギさんが好んで食べるものはそれこそ熟知しているので、いいところを選んでもってきた。


 さて、この【たくさん入るバスケット】は竜に踏まれたくらいでは壊れない程度の強度を持っている。

 なぜなら、うさみの家の近所にも竜が住んでいるからだ。

 うっかり踏んでしまって壊れたりすると危ない(・・・)ので、必要最低限の配慮をするのは当然のこと。


 ところで、月にいるウサギさんの使う兵器は竜がうっかり踏むのよりも威力があるだろうか。

 答えはイエス。


 月のウサギさんの【レベル】は最低ラインで二百を超える。高いものは倍以上。

 参考までに、地上最強の生物が二百五十五でうさみのご近所竜が百八十ほど、そしてうさみは堂々の一。

 要するに月の方が高レベルなのだ。


 さらにこのレベルを基準に作られ運用される装備もまた相応のものである。


 以上を総合して何が起こるかというと。


 バスケットが壊れる。


 すると中にあるモノがぶちまけられるのは当然のことで。






 どれもこれも、うさみの油断が招いた結果である。


 バスケットの破壊によって空間圧縮が崩壊しあふれ出す野菜は二十トンを超え爆発的な勢いで空間が復元されるのに合わせて周囲へその質量をぶちまけうさみが魔法で対処するのはわずかに遅く中核部ごと自身を上空へと吹き飛ばすことしかできなかった。


 上空と言ってもここは建物の中それも地下でありこれを破壊することをためらったのも対処が遅れた原因の一つであるのだがともあれ崩壊中の空間圧縮を別の空間魔法で介入してすり抜けたがそれだけでうさみはため込んでいた魔力を使い切った。



 要するに盛大に月面上空に打ち上げらればらまかれたお野菜とうさみ。

 あと地下に介入が間に合わず全方位にぶちまけられたお野菜とそれを浴びたウサギさんたち。


 今生のうさみと月のウサギさんのファーストコンタクトは悲惨な結果に終わったのだった。




 ※ぶちまけられたり、ばらまかれたりしたお野菜はスタッフがおいしくいただきました。

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