皇帝初心者とうさみ 3
地下帝国パラウサの中枢、そのさらに地下深く。
大地を掘削した空洞ではなく、明らかに人工の区域があった。
通路は円筒を横にしたような形状になっており、天井、壁、床に関わらず随所に出っ張りがある。
床にある出っ張りは、足を引っかけないように気を付ける必要があった。
また、長らく封印されていたとのことなのにチリ一つ落ちていないのが不思議である。。
月と地上を結ぶ相互転送装置は、ゴテゴテした金属部品で構成されたの土台の上に、半畳ほどの面積の透明な筒を設置したような外観をしている。
うさみは初めて見たとき――ゲーム時代のことだ――には、ファンタジー? と首をかしげたものだが、これも立派な魔法技術の産物。
広義での魔導具の一種であるが、魔導機械とでも呼んだ方がしっくりくるかもしれない。
これは地球でいわれていた、オーパーツというやつだ。
当時、というか現在の技術レベルでは存在しないはずの物品で、この場にしかない唯一品である。
オーパーツはこの世界に結構な数存在する。
その由来は古代文明、神代の遺産、超がつく天才が残した、謎に包まれたままなど様々だ。
ではこの転送装置はどういったいわれがあるものか。
使われている技術は、金属部品を多用しているように見える。
この世界で主流になっている魔法技術――魔物の生体素材を多く利用するもの――とは一線を画する独特のもの……と思いきや。
よくよく見ると共通の技術が使われていた。
異なる体系の技術と、この世界で主流の技術の折衷。
そのように見るのが適当であった。
そうすると、次に出てくる疑問は、その異なる体系の技術とはどこから来たのかということである。
うさみのように別の世界からやってきた人がいたのだろうか。
結論を言うと、半分正しい。
「まさかウサギさんが宇宙から飛来した宇宙人だったなんてー」
と、転送装置を確認しながら棒読みでつぶやくうさみ。
特に意味はないがこの場に来た時のお約束だ。
そう。
ウサギさんは、この世界の外からやってきたのである!
ウサギさんは月で餅をつくという。
地球でも有名な、月の模様を表現した例え話。
だが、この世界では真実、月で餅をついているのであった!
この世界では星界とも呼ばれる、空のかなた。
ウサギさんは遥かな昔、この世界にやってきて住み着いたのだ。
ある意味うさみと同じ異世界人なのである。人じゃないけれど。
「我らが生まれる前から地下帝国パラウサに通っている名誉臣民うさみが、忘れられた転送装置のことを、なぜ知っているのかは問わないウサ」
ウサギさんの寿命はうさみよりずっと短く。
うさみが地下帝国パラウサに顔を出すようになってから、何度も世代交代が起きている。
世話役の白と黒のウサギさんコンビや、ここにはいないが地下帝国の皇帝陛下を鍛え上げたのもうさみだ。いっぱい見てた中のひとりとしてだし、一緒に遊んでいただけともいうけれど。
卒業しても頻繁に顔を出すサークルOGみたいだなあと、うさみは思ったことがあるが、今はもう開き直っている。
……ウザがられてないと信じたい。信じよう。信じた。
「遥かな昔、遠いご先祖が星の世界からやってきて、二つの帝国を築き上げた、伝承にはそうあるぴょん」
「一つは大地に、一つは月に、と言われてはいるが、詳しいことは残っていないウサ」
そんなうさみが現れるよりも、ずっとずうっと昔から帝国に伝わる伝承は。
時の流れで風化しつつあったのだ。
「それでもわかることをまとめると、お餅をついていることと、何かと戦っていることぴょん」
「気を付けていくウサ。あとこれ陛下からの親書ウサ。ついでに渡してくれウサ」
白ウサギさんからうさみへと、ポンと渡される小さな結晶板。
「伝承が正しければ向こうでこれを読み取れるはずだぴょん」
この結晶板がメモリーカードのようなものであることを、うさみは他生の経験から知っている。
あえて普段の生活で使わないを持ち出すことで、伝承を確かめようという意図があることも。
さらに言えば先方でなにがあるか、例えばメモリー結晶板が骨董品扱いで中身の読み出しのためにひと悶着あることとかも知っている。
厳密にはまだ起きていないことではあり、確定事項ではない。
うさみは繰り返す時間の中で、全く同じ人生を歩んだことはないのだ。
しかし、よほどでなければ変わらないことというのはある。
長らく途絶えていた月と地上がつながるとき、なんてのもその一つである。
と、うさみは思っていた。
「了解! じゃ、行ってくるね!」
転送装置の点検をすませ、メモリー結晶板を受け取り。
うさみは軽~く挨拶をして、転送装置を起動させたのだった。