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うさみすぴんなうとAW  作者: ほすてふ
皇帝編

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皇帝初心者とうさみ 2

 うさみはウサギが好きである。

 見た目かわいらしいだけでなく、毛皮の柔らかな手触りもよい。カリカリと野菜をかじる姿も微笑ましい。

 幼少のころから絵本やぬいぐるみ、キャラクターグッズなどでお世話になったし、小学校では飼育委員でウサギ小屋のお世話をしていたし、瀬戸内海のウサギだらけの島にも行った。


 だが、ただそれだけでウサギさんを保護しているわけではない。

 猫やリスとか、小動物は大体(例外的に苦手な犬を除く)好きだが、特に保護したりはしていない。


 うさみとウサギの響きが似ていることも特に関係がない。

 “うさみ”はゲームに登録する際に手近なところからとってきた名前だ。

 ゲーム時代の友人から身バレするから由来は秘密にしなさいよとたしなめられたくらい適当につけたものである。

 初めてで多人数プレイ時に操作キャラに付ける名前のマナー、なんてものは知らなかったので。

 ウサギを意識していたわけではないのだ。


 さらに、この世界のウサギさんは、地球よりゲーム時代のものに似ている。

 どういうことかといえば、地球のウサギと比べてデフォルメされているのだ。


 まんまる毛玉にうさ耳と足が生えて、顔がついているような一頭身の生き物。それがこの世界のウサギさんである。


 地球に居たら『ウサ……ギ?』と首をかしげるような姿だが、ゲームであれば『お、ウサギじゃん!』と受け入れられる。そんな見た目である。

 うさみも、地球から直接この世界に来ていれば、“ウサギさん”ではなく、“ウサギのような何か”として認識していただろう。

 しかし、ゲームの中から来たのでウサギさんとして認識できていた。


 ともあれ、厳密にはウサギさんは地球のウサギとは違う生き物なので、地球時代のウサギへの好意は関係ないのである。



 ではなぜウサギさんを保護……優遇するかというと。


 端的に言えば世界滅亡を遅らせるためであった。






 地下帝国パラウサ。

 それは世界の中心にある星降山、その地下を版図とする、ウサギさんによる帝国である。


 ゲーム時代、うさみは地下帝国パラウサに関わるイベントを体験した。

 ウサギさんと戯れることのできる大変すばらしいイベントだった。


 そのときの経験から、ゲームそっくりなこの世界にもあるんじゃないかと思い、ちょっと行ってみたらあったのである。


 そしてゲーム時代のイベントのように、うさみは地下帝国パラウサと提携するようになった。

 ウサギさんにご飯をあげたり、鍛え方を指導したりするのだ。

 自然に生きていても成長はするが、この世界の仕様を利用した方法で鍛えるとやはり効率がまるで違う。

 ほとんどのウサギさんは普通の動物並みのおつむなのだけれど、高位のウサギさんの中には言葉を理解し、下位のウサギさんを統率できる種族もいて、会話による意思疎通ができる。

 彼らと協力してウサギさんを鍛えると、世界の滅亡を遅らせることができるのだ。


 そんなわけで、うさみは地下帝国パラウサのウサギさんとは懇意なのである。

 どれくらい懇意かというと、地下帝国パラウサから、はるか遠いうさみの自宅の近所まで、出稽古にやってくるくらいである。

 さすがに移動時の足役はうさみが担当するけれど。

 うさみの自宅がある場所はは世界有数の危険地帯だが割と人気だ。

 毎日うさみ野菜が届けられるので。


 ともあれ、今日もうさみは地下帝国パラウサに出張していた。

 のんびりするのにちょうどいいので、週一くらいで通っているのだ。お土産の野菜を持って。

 人間社会はいろいろ大変だがウサギさんたちは単純でいい。

 自宅近辺のウサギさんと戯れてもいいのだが、近所だとどうしても目に入る畑が気になってしまうので、あえて遠くの地下帝国パラウサにやってくるのである。


 そして最近お気に入りの子を撫でつつ、持ってきた野菜目当てに集まったウサギさんに囲まれウサギさんハーレムでまったりしていた。


 そんなときふと思いつく。


「あ、お餅食べたい」


「お餅ウサ?」


 言葉をしゃべることができるので、うさみ対応役を務めている白と黒のウサギさん、その白いほうがうさみの妄言に反応する。


「そうそう。お餅。月でウサギさんがお餅ついてるって言うじゃない?」


「な、何のことぴょん? そんな話は聞いたことがないぴょん~」


 うさみの言葉に、黒いほうがそわそわしながら答えた。

 ピンと立った耳が落ち着きなく向きを変え続けている。


「月面帝国への転送装置、あるでしょ? 使わせてよ。お願い」


 うさみにごまかしは通用しない。

 だって知っているのだもの。

 何度世界を繰り返したか。

 うさみの始点より前からあるものはほぼ間違いなくこの世界に存在していた。

 だから転送装置も存在するのだ。


 うさみは白と黒のふたりを撫でまわしながらお願いした。

 額からマッサージするようにこね回し、耳をやさしく揉みながら流して背中を毛皮の流れに沿って撫でて尻尾の付け根をもみもみする。

 これを繰り返した。


「ウサ~」

「ぴょん~」


 うさみのウサギさん撫でキャリアはきっと世界一ではないかと自負している。

 普通に撫でているように見えるが経験が繰り出す細やかな指使いが、ふたりをうっとりさせた。


 その結果。


「許可をもらってきたウサ」

「でも動くかどうかわからんぴょん」


 日頃の行いのおかげで、無事使用許可が下りたのだった。

 こうしてうさみは、お餅食べたいという名目で長らく封印されていた月地上相互転送装置を起動させることになったのである。

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