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使い魔?うさみのご主人様 35α ふぉーすていくていす 5

 やってしまった。


 朝のメルちゃん様強化訓練の時間。

 うさみは頭を抱えていた。


「ねえうさみ、次はどうしたらいい?」


 メルエールがうさみの顔を覗き込み、指示を仰いでいる。

 その表情は全幅の信頼……を通り越して依存の域に踏み込み駆けまわりぐるぐると回っていた。ぐるぐる。


「えっと、じゃあ、そろそろ時間だから」

「ご褒美ね!」

「あ、うん」


 うさみが緑汁おいしいを用意する。

 メルエールは目を輝かせて飛びついた。

 おいしそうに飲む姿を見て、うさみは改めて思う。

 やってしまった、と。



 依存性薬物とか混入しているわけではない。

 緑汁おいしいは、おいしくて体にいい、という域を越えるものではない。



 ただうさみは、効率よく訓練を行うために、様々に心配りをしただけだ。

 訓練の意味と目的を分かりやすく説明し、【レベルを下げる魔法】でレベル一にしたことがばれないように能力を向上させる魔法もかけた。

 モチベーションを維持するためにご褒美として緑汁の味の改良を続け、結構おいしいんじゃない? とうさみも思うくらいの配合を見出した。

 うまくいけば誉め、失敗したら励ました。

 その他事細かにアドバイスを重ね、メルエールは魔術王国サモンサ基準で一人前の魔術士と呼べるほどの魔法(・・)の腕を手に入れた。

 本人が魔術だと信じている限りは同じものだから問題ないかなって。


 そして一週間が過ぎ、メルエールから訓練延長の要請があった。

 どうも、ご褒美の緑汁おいしいが飲みたいらしい。

 運動した後ドロッとした飲み物とか結構しんどくない? とうさみは思ったが、本人は運動した後に飲むからおいしいのよ、と。

 まあそういうなら早起きは三文の徳というし、運動するのはうさみも好きなのでと了承した。


 そしてしばらく時がたち、うさみはようやく気付いたのだ。

 あれ、メルちゃんわたしに依存してない? と。


 うさみが結構おいしいと思う食べ物をこの時代の平民が口にすることはない。

 メルエールは平民基準の食事を中心にしている。

 また、うさみの指示での訓練によって実力がつくことを、メルエールは実感していた。

 訓練! おいしい! 成長した! の三拍子を繰り返し繰り返し体験した。


 その結果、メルエールはうさみバンザイになってしまったのであるうさみバンザイ。


 うさみの経験上、世話を焼きすぎて依存させてしまうようなことは前にもあった。

 あったのに。

 また(・・)やらかしてしまったのである。


 うさみうさみうさみうさみうさみ、と何かにつけ意見を求めてくるメルエール。

 うさみうさみうさみうさみうさみ、と上手くいったことを褒めてと駆け寄ってくるメルエール。

 うさみうさみうさみうさみうさみ、と失敗したことを上目遣いで申し訳なさそうに報告してくるメルエール。


 わんこだこれ。


 うさみは犬が苦手であった。

 いや犬っぽいだけで人間なんだけど。


 こうして、うさみは頭を抱えたのだ。





 □■□■□■□■





 一方、夜中の訓練は順調だった。

 おいしい飲み物を用意しなかったためか。

 はたまた、メルエールと違ってそこまで懇切丁寧にやらなかったのが逆にちょうどいい距離になったのかもしれない。


「エルフ、見た目より重いな。よい練習台になりそうだ」


 初日、森の中での最終活動を、使い魔竜に乗って完了し、背から下りたときにそんなことを言われて蹴飛ばしたせいかもしれない。

 蹴った勢いで使い魔竜が浮いて。

 驚いて。

 怒って。

 追いかけてきたので逃げ回った。

 散々逃げていたら空の一部がが藍色がかって星の数が減ってきたので、ご主人様のお世話しないとまた明日ねー、と手を振って別れた。


 翌日会った使い魔竜はしょぼくれていた。

 うさみが話を聞くと、うさみに逃げられたことをお姫様に報告して叱られたのだという。


「背に乗せるのは許したが、蹴りとばすとは無礼なやつだ」

「無礼は貴様じゃ。教授を願おうという相手に失礼を働いてどうするのか」


 といった感じのやり取りがあったらしい。


「いやそんな気にしなくていいよ?」

「そうか!」


 うさみは使い魔竜があんまりにも落ち込んでいたので声をかけた。

 するとぴょこんとうなだれていた首を起こしながらうれしそうな声で返事が来た。


 ちょっと気遣われただけでは、これほどうれしそうな態度はとらないだろう、という極端な変化である。

 そこでうさみは想像した。

 詫び入れて許してもらってこいって言われてたなこの子。

 でもごめんなさいするのは竜の矜持が許さなかった。

 そこにうさみが許すようなことを言ったのである。


 大喜び。


 いや子どもじゃないんだからさあ。

 謝るのが嫌で落ち込んでるとか。

 許してもらえたから謝らなくていいとか。

 まあ竜の価値観だし。

 あ、でも竜としては子どもか。

 子どもならいいのかなあ。

 うさみはなんとも複雑な思いを抱き、それは苦笑という形で表に出た。


 うさみは子どもは嫌いではない。

 嫌いではないがだからこそ、意識して距離を取らないと――。





 □■□■□■□■





 あ、ここだ。

 うさみはメルエールに依存され、お姫様と使い魔竜との関係がうまくいった理由についに思い至った。

 メルエールは世話を焼きすぎ、使い魔竜には感情移入しすぎないように意識してストッパーをかけていた。

 もともとメルエールは何度も死んでも関わろうというほど思い入れがある子でもある。

 次があるなら気を付けよう。

 そうだなあ、ご褒美じゃなくて罰ゲームにするとか、うさみを信用しすぎないように……って言うのも寂しいけれども。


「うさみうさみすごいわここ! さすうさ!」

「あらあらー」


 うさみの拠点を見て騒ぐメルエールを見ながらそんなことを考えるうさみだった。


 リリマリィ嬢とワンワソオ少年との関係はワンワソオを足踏みさせている間にリリマリィを焚きつけることで解決。

 使い魔竜の背に乗って、乗る側の意見を伝えたり実戦練習ということで夜行性の使い魔を集めてもらってゾンビ鬼で遊んだりと、フランクラン姫ともつかず離れず悪くない関係を築けていた。


 そんな中、メルエールがついにもう貴族とかいいからうさみと一緒にうさみのうちに行こうと言い出したので、弟君の件を解決してエルミーナお母さんとともに連れて帰ったのだ。


 エルミーナお母さんとともにメルエールのうさみ依存を脱却させるのに十年かかった。




 それから例によってうさみは死んだ。

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