使い魔?うさみのご主人様 35α ふぉーすていくていす 3
「しかし騎竜になるにはどうすればいいのか」
偉い人の使い魔の竜がうさみむかってつぶやいた。
「種族進化するときまでに騎竜になりたいって願いながら、ヒトを乗せる練習をしてたらいいんじゃないかな」
ウサギさんは大体そんな感じである。
首を狩る子とか。
牙が生えた子とか。
もはや逃げ場なし、やられる前にやるしかない、というストレスにさいなまれて進化したらしい。
と、兎人族である友人、だった子が言っていた。
いつも適当なこと言っている子だったから嘘かもしれない。
ただ、環境に適応するように種族進化するというのは経験上も頷けることであるので、大筋外していないだろう。
ほかに周囲にいる種族に進化しやすい、逆に言えば最初の一体が生まれるのが難しいというのも今まで見てきた。
初めて見る種族のウサギさんがいるなと思ったら翌日とかに二十も三十も同じ種族のウサギさんが増えていた、ということがままあった。
なので身近に目標となる騎竜がいれば……と思ったが、竜なんてこの地域にもしかすると目の前の幼竜だけじゃないのかしらん。
うさみは実現不可能なことまで言う必要はないだろうということで、教えなかった。
「願うか。難題だな」
しょぼんとうなだれる使い魔竜。
竜は他者に何かを願うという思考回路をしていない。例えばそれが神様であってもだ。
使い魔として従属しているという特殊な状況下であっても、そういった矜持は持っているらしい。
今だって、教えてくれとは言わないし。
世間話の中で口にした疑問にうさみが答えているという体裁だ。
そうしようというのではなく、自然とそうなのである。
教えなかったらどうなるかといえば、拗ねるか、怒るか、まあ俺が知らないことをお前が知ってるはずないよなみたいな態度で受け入れるかのどれかが濃厚である。
俗に言えばめんどくさいタイプのツンデレである。
慣れれば付き合えないこともないが、イライラしている日などには会いたくない。そんなタイプが竜という生き物なのだ。
「あー、まあその表現の問題で。望むとかなろうと決めるとかそんな感じで」
「なるほどそうか」
使い魔竜が頭を上げる。声色同様に嬉しそうな顔であった。
「面白い話を聞いた。エルフよ、また会おう。あまり怪しいことをするでないぞ」
そう言って飛び去って行く使い魔竜。
ばいばーいと手を振るうさみ。
そして、ばいばーいのばーいの動きでくるりと向きを変えて森への移動を再開させた。
□■□■□■
「よしよし上出来」
うさみは緑汁を丸薬を完成させた。
緑汁は事前に確認したこの辺りで栽培されている野菜や果物をうさみの拠点から取り寄せたものと、森をざっと回って集めた、この辺りでとれる薬草のたぐいをすりつぶして混ぜて味を調整した、栄養ドリンクである。
魔術王国サモンサがある地域で獲れる素材で作るというのが重要なテーマだ。
蜂蜜や果汁を使って飲みやすく仕上げたが、どろどろなのが苦手な人はだめかもしれない。
うさみの畑の産物を使っているので味は十分以上においしいので、どろどろがだめでも絞れば飲める。
そのうちこちらの野菜用のレシピを作る必要はあるが、とりあえずこれを飲ませてメルエールの体調を調整しようという目算である。
いろいろと使ったのでぜいたく品になりかねないのが問題のひとつで、ニンニクっぽいのとか入ってるので匂いが大丈夫かなというのが懸念点であるがその辺は調整していく予定だ。
これはこれから厳しい訓練を課すメルエールが倒れないよう補強するためと、療養中のメルエールの弟君に飲ませるためのものだ。
ほぼ栄養不足対策のサプリメント用途だが、前述の通り強壮作用のあるニンニクっぽいものなど、香辛料や薬に分類される薬草類も入っているので、それだけでもない。
栄養学が体系化されていない時代だからか、基本的に栄養不足なので、これを飲むだけでだいぶ違ってくるはずである。
強壮作用が強すぎると療養中の弟君にはキツかもしれないのでメルエールで調整もする予定である。
丸薬も同じようにこの地方で手に入る素材で作ったものだが、味の調整をしていないのでマズい。尋常じゃなくマズい。
月光草という、夜中に月の光を浴びている間に採取すると魔力回復薬に使える植物があるのだが、これの味が問題なのだ。
ちゃんと薬効のみ抽出すれば味とか気にならなくできるのだが、そこまでやるなら設備が欲しい。
あるいは糖衣にできればとも思うが砂糖は買いに行かないとないし高い。
メルエールが望むなら教えるつもりなので手の届く材料でまとめたいところ……夜の森に入る必要がある月光草がすでに手に入れにくいのだけれどそれはまあ。
「ま、とりあえずこれで完成、と。お、いい時間だ」
調合作業を終えて寝室に戻る。メルエールは布団にくるまってすやすやだ。
ちょっと寒そうなのは出かけたとき窓を開けっぱなしにしてしまったせいかもしれない。
うさみは右手を顔の前においてごめんねのポーズをした。
ポーズだけ。
そしてその窓の外はうっすらと明るくなりつつあった。
うさみはそれを確認した後、ぐっと伸びをする。
「さてと、今日から魔術の練習だよっと」
一言つぶやいてメルエールを起こすのだった。