使い魔?うさみのご主人様 35α ふぉーすていくていす 2
ウサギさんは逃げるのが仕事である。
犬や狼は狩り。
人間以外の生物は、【レベル】【クラス】【スキル】という三つの力を持っていない。
正確に言うと、別の形で持っている。
【レベル】はこの世界にいる【生物】すべてがもっている。
【クラス】はないが、種族そのものが【クラス】に相当する。
【スキル】はないがレベルが上がると、その種族によって決まった【スキル】相当の能力が身につく。
また、命を奪わずとも、種族の仕事……役割……特性に沿った行動をとることで【レベル】が上がる。人間の【クラス】や【スキル】が上がるように。
つまりウサギさんは強大な相手から逃げ回ればレベルが上がり、耳がよくなり足が速くなり体力もつく。
犬や狼は狩りに成功すれば命も奪えるので一石二鳥だ。
人間で例えるなら【クラス】が種族名、つまり[ウサギ]とか[犬]で、【クラス】に沿った【スキル】が、【クラス】に沿った習熟度で自動取得される。
そのうえ、【レベル】が【クラス】と連動して上がる。
実質的に三つの力を持っているようなもの、むしろセットで上がる分お得なんじゃねずるい!
というのがモンスターを使役するクラスやスキルを駆使して調べ上げられたゲーム時代の仕様である。
プレイヤーたる人間の仕様とは違うことがわかりずるいずるいと話題になったらしい。
しかし、種族の特性とは違う技術を身に着けることが難しいことが発覚。
つまり自動取得以外のスキルを覚えられないのだ。
変わったことをやらせるには現実と同じくらい手間暇かけて教え込む必要があった。
人間であれば関係する行動をとればクラスとは違う系統のスキルも取得できる。
やっぱりずるくないんじゃねと話題になったらしい。
そんなゲームの仕様だったが、この世界も大体そんな感じだった。
神書にもある。
人は矮小なので力を授けます、みたいな。
つまり人以外は矮小じゃないともとれるわけだ。
ずるい。
あいや、ずるくないんだけど。
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さて、逃げたり狩りをしたりで強くなる生物がいる。
では竜はどうすれば強くなるのか。
答えは時間である。
竜は生まれついての強者で、卵から孵った時点で人間より重い。
そして大きさ相応、いやそれ以上の強さを持っている。
そして時間がたつだけでさらに強くなる。
ずるい。
竜の種類にもよるが千年も生きればレベル百五十くらいに到達する。
千年とか普通の人間は生きられないのであんまりずるくないかもしれない。
もっとも、竜は狩りをして命を喰らうのでもっと早い。
竜に直接聞いた話を総合したものなので大体あってると思われる。
のんびり待つか、戦いに身を投じ命を喰らうか。
竜が力を求めるならこのどちらかである。
ただし、何事にも例外というものがある。
「例外とな?」
「種族進化するときに騎獣系に進化すれば、人を乗せて移動するだけで強くなれるようになるよ」
うさみは竜の人生相談……竜生相談? にのっていた。
人間以外の生物はレベルが上がると種族進化することができる場合がある。
魔物化と呼ばれる現象があるが、これも種族進化の一種である。
例えばウサギさんに角が生えたり、一撃必殺技を会得したり、眠らせる魔法を使えるようになったり、そういう種族に変化するのだ。
寒いところにいる魔物が冷気を操ったり、火山に住む魔物が炎を操ったりするのはこのためで、多くの場合環境に適応するために進化するのだとものの本に書いてあった。
そしてそういった本は魔術王国サモンサにはない。
そんなストレスのかかる環境が、サモンサが属する地域にはないからだ。
せいぜい、狩られる立場のウサギさんが反逆のために牙を持ったとかそのくらいの小さな変化である。
「うむ、我が主は我に乗るのが好きなのだ。だが最近大きくなってきてな。人の子は成長が早い。いや竜が遅いのか」
「重くてうまく飛べないと」
「うむ。であるからその騎獣系とやらはよさそうだ」
飼いならされた竜。
自尊心が高くて他者を見下している傲慢が基本の竜にしてはあまりに素直な子であった。
うさみの知るかぎり、主に尽くす竜というのは実に珍しいのだ。それこそ騎獣系の竜、騎竜くらいのものである。
また、幼竜であるにも関わらず、人語を解する竜も珍しい。
頭はいいが、言葉を覚えるのは百年やそこらはかかるのだ。若い竜は他者を餌としか見ないからだとか。竜に聞いたので多分あってる。
使い魔の魔術というのはすさまじいなとうさみは思う。
ここまで性質をゆがめられるのだ。
ただ、術者よりも格下でなければ召喚されない安全措置が組み込まれていたので、どんな相手でも従えられるわけではない。
だが大型の獣も赤ちゃんの時になら使い魔として召喚できるわけである。
上手いこと作ってある。
でも学院で教えている魔術と比べると高度すぎるのがやはり不思議なところ……いやいまはそれよりも。
竜は生まれつき強い。
その竜を使い魔として従えているものがいる。
フランクラン王日姫。王太子の三女。
竜の使い魔を連れているのはこの人しかいない。
生まれたばかりでも幼竜は、人間でいうとレベル四十くらいに相当する。
しかし、魔物の強さからしてこの地方ではレベル二十少々が精々のはず。
なにか秘密があるのだろう。
だが、うさみにとってはそれがなにかはこの際どうでもよかった。
お姫様である。
いつか、仮定王様の粛清部隊である武装集団に匹敵する早さで、うさみとメルエールに接触してきた人……のボス。
魔術学院にいる要注意人物の一人。
もう一人はリリマリィ西華男爵令嬢である。
彼女の社会戦能力に対抗するには偉い人に頼るくらいしか思いつかない。こわい。
なので恩を売っておこうという打算によりこの竜の相談に乗っていたのである。
そうでなければ適当に煙に巻いておかえりいただいていたところだ。
なお、リリマリィとは敵対しない方針で、フランクラン王日姫は保険である。
大体王族の方が普通に考えて厄介だ。なんか仮定王様の部隊に対抗してる気配がすることもある。
できることなら誰とも敵対とかしないで穏やかに事を進めたいところである。
ただワンワソオ少年をどうするかが問題。
若い子、それも男の子の考えてることとかわかんないし。