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使い魔?うさみのご主人様 35α ふぉーすていくていす 1

 その竜と出会ったのは、メルエールに魔術の特訓を提案した日の深夜である。


「どこへ行くエルフよ」

「森ー」


 つったかたー、と魔術学院の敷地を囲う壁を乗り越えるところで声をかけてきた。

 つったかたー、と一言返事をして走り去った。

 つったかたー。


 うさみが夜中抜け出したのは他でもない。

 周囲の地形の確認。

 ……と植生の調査、運動不足、ストレス解消、今後の予定の検討、星がきれいだった、月は出ているか、学院で魔法を使わないことにしているので、エルフなので夜中でも昼間同様に見えるから、昼間はメルエールについている必要があるから、などなどである。

 他でもなくなかった。


 メルエールの抱える問題は座学の遅れ、魔術実技の不利、実家の孤立問題、ぼっち、ワンワソオ黒森子爵嫡子、腹違いの弟の病気、半ば人質な母親。

 さらに、将来反逆者として殺されることといったところである。

 この中で頭の二つが喫緊の課題で、最後の一つがどうにかしたい課題である。

 そして二つ目に関しては、おそらくうさみの知識を使わなければ解決できない。


 どうもこの国、魔術王国サモンサでは【クラス】について周知していないらしく、戦士系クラスと魔法使い系クラスのあいだにある差を才能とか適性として扱っているらしい。

 もろもろ込みで今のメルエールは普通に取り組むなら周りの学院生より十倍くらい頑張らないといけないのだが、最大MP量が五分の一から十分の一しかないため、魔術の練習ができないというにっちもさっちもいかない状況。

 また、この地方はレベル二十帯であることから、MP回復用の道具の材料が手に入りにくく、カネで解決することも難しい。まあ、そのカネもないのだけれど。

 クラスチェンジは神殿が力を持っていないしレベルも上げにくいので現実的ではない。

 コツコツ頑張るには退学までのタイムリミットのため、時間が足りない。


 となるともう普通じゃない取り組み、うさみの知っている世界の仕様の抜け道的な鍛え方を実践するしかないだろう。

 他者に使うのは相手の人生を台無しにする危険があったり過程がアレだったりいろいろと心苦しいところもあるが、この際しかたがないよね。


 ついでに森で獲れる素材を把握して健康ドリンクを作れたらよい。

 病気からの復帰がうまくいっていない弟君の体調改善のためである。

 毎回同じであるとは限らないので診断しないと断言できないが、栄養失調気味なのは一目でわかったし、食生活が大きく変わるとも思えないので栄養足りてないのは変わるまい。

 弟君が回復すればメルエールの選択肢は増える。

 当主になる道は細くなるが、母親公認で貴族向いてない子であるし、どうしてもやりたいならやりようもあろうから問題ないよね。



 だいたいこんな思惑でつったかたー。

 敷地の警備はゆるゆるだ。

 外壁の警備もそれほどでもない。

 つったかたーと乗り越えて街の外に出てのんびり走る。

 何も考えずに走るのは気持ちいい。

 万一誰かに見られるといけないので常識的な範囲に加減していてもまあまあ気持ちいい。

 何も考えずに走りたい。


「こら、無視するでない」


 気分よく走っていると上から声をかけられる。

 さっきの竜である。

 竜。あるいはドラゴン。

 肉食恐竜に大きな羽が生えたような生き物だ。

 竜としては小さく、まだまだ幼体であることがわかる。

 体高一メートル半くらい、体長二メートル、いや尻尾がもうちょっと長いかくらいだろう。うさみと比べると大きく見えるが、成人男性を乗せて飛ぶには小さいだろう。走るくらいなら余裕そうだが。

 また、使い魔のしるしである黄黒のしましまのベルトが首に巻いてあった。


 竜なのに虎縞。


 うさみも飾り布として束ねた髪に巻いている。

 うさみの金髪に虎縞はちょっと色の取り合わせがちょっと好みとは違うので腕に巻くようにしようかとも検討している。



 さて、わざわざ追いかけてきて話しかけられたので、うさみは足を止めた。

 竜はついーと飛んで行った。

 そして帰ってきた。


「急に止まるな」

「えー。呼び止めたのそっちじゃないの」


 理不尽な要求に、うさみは頬を膨らませる。

 とはいえ竜は大体理不尽なのでいちいち腹を立てていては付き合えない。

 つまり演技だ。

 わりと素に近いとは言っても演技だ。

 千年単位で生死しているというおばあちゃんってレベルじゃないうさみだもの、素では子どもっぽい真似はあんまりしない。

 だが見た目が子どもであるので、子どものふりをしていた方が楽なのだ。

 子どもが大人のような言動をしていたら詮索されたり微笑ましい目で見られたりするが、子どもが子どもの言動をしていても注目されにくいのである。

 なので人の目が懸念される場合は子どものふりをするのが身についていた。

 演技だから恥ずかしくないもん。

 今など、ちょっと魔法使ったら抹殺されるような国にいるのでなおさら注意が必要だ。


「こんな夜中に城壁を軽々と越えて出かけるエルフの子ども。怪しいやつめ」

「えー」


 うさみは頬を膨らませた。

 うっかりであった。

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