使い魔?うさみのご主人様 21α さーどえくすぺくと 2
後日、うさみはリリマリィの部屋に忍び込んだ。
「こんばんわ」
「あら、夜遅くに誰かと思えば。お久しぶりね」
部屋の中に黒いもにょもにょが現れ、そこからさらにうさみが現れても、リリマリィは動じなかった。
使い魔の小型犬が主を守ろうと間に入り、唸り声をあげたが、その主に抱きかかえられ、無力化される。
「何の御用かしら?」
「ちょっと聞きたいことがあって」
「あら。聞くだけでいいの? 復讐――」
リリマリィはそこで言葉を止めてうさみを観察する。
うさみの様子が変わらないことを確かめ。
「なんてことはあなたは考えませんか。ふふ」
リリマリィは笑った。
「あなたはずっと一歩引いていました。いえ、一歩どころか周りをまるで相手にしていなかった。そうね、物語でも読んでいるような、いえ、盤上遊戯で遊んでいるような?」
「……」
「ええ、わたくしと似ていてより遠くにいる。どこか投げやりで、いえ、やり直しができるとでも思っているようでした」
「答え合わせをしに来たのに、逆に答え合わせをされてるみたいだね」
微笑むリリマリィに、うさみは気おされていた。というか本気でビビったのは久しぶりだった。
うさみについての情報なんてほとんどないはずなのに。例えだとしてもピンポイント過ぎた。こわっ。
天才のたぐいか。そうであってほしい。凡人がここまで怖い人になるような環境とか想像を絶する。
「ふふ。ごめんなさいね、せっかく足を運んでいただいたのです。なんでもお答えいたしますわ。その前にどうぞ、お座りになって?」
うさみは勧められるままに、いつかメルエールが勉強を教えてもらっていた椅子に腰掛けた。
リリマリィも使い魔を抱いたまま向いへと座る。
「あー、それじゃあ一つだけ。なんで?」
ここまで手際よく手回しできる人を他に知らなかった。
仮定王様であればあの武装集団を動かすだろうし、お姫様ならむしろ取り込もうとするはずだ。
知っている範囲では気づかれないように周囲の意識を動かして人ひとり排除するなんてリリマリィしか思いつかなかった。
知らない人の可能性もあるので確認に来たのだ。
しかし、リリマリィ本人が自分がやったと主張している以上聞くことはそれだけだ。
「あら。簡単ですわ。愛です」
え、マジで? 反逆者まで手配するとかそこまでやっておいて動機が愛?
「意外でしたか? ふふ、でしょうね、わたくしも意外ですもの。これほどあの方に焦がれるなんて」
顔に出ていたのか、出ていなくても読み取ったのかわからないが、うさみが何も言わなくても意を汲み取って話すリリマリィ。
その表情は恋する乙女のものだった。
うさみの頭の中で、いくつかの出来事が一つにつながる。
ワンワソオ黒森子爵嫡子。
彼だ。
メルエールにちょっかいを出していた好きな子をいじめちゃう系男子。
これに対し、リリマリィははじめ特に動いていなかった。
しかし、うさみが来たことをきっかけに、動き出す。
うさみたちが状況を利用したように、より早くより的確に行動したのだ。
かわいい使い魔愛好会を作ってメルエールをワンワソオ少年から隔離した。
そしてメルエールを護るという名目で自身とワンワソオ少年との接触を増やす。
そうやって徐々に攻略していこうとしていたのだろう。
しかし、これほど鋭いリリマリィであっても、愛は盲目だった。
うさみが単独行動に出たところを狙って動くとは読めなかったのだ。
そしてその後、ワンワソオ少年の攻勢が強まる。
アプローチも変わったのだ。
リリマリィは焦っただろう。
そして自分にできることをやった。
メルエールを完全に排除することにしたのだ。
結果はご覧の通り。
完全にうまくいったというわけだ。
うさみは改めて思った。
こわっ。
ただ、まあ。
「あー、うん。わかったよ。愛じゃあ仕方ないよね」
「ええ、愛ですもの」
どんなやべー子でも、年頃の女の子でもあったということか。
うさみはそのように納得した。
いまさら人の二面性を見てどうだこうだということでもない。
意外などと思うのは外から見た思い込みに過ぎない。
馬に蹴られて死にたくはない。
「教えてくれてありがとうね。それじゃあ、もう会うことはないだろうけど。さようなら」
「ええ、メルエール様に……いえ、やめておきましょう。さようなら」
うさみが、椅子からぴょんと飛び降りる。
黒いもにょもにょを生み出して、部屋から消える。
その様子を見届けてから、リリマリィは使い魔を撫でながらつぶやいた。
「わたくし、犬が大好きでして。ふふ」
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まあそんなわけで千年生きてうさみは死んだ。