使い魔?うさみのご主人様 6α さーどえくすぺくと 3
うさみ登校初日の夜。
寮のメルエールの部屋である催し(参加者二名)が開催された。
メルエールの交友関係について考える会。
お友達は?
「いません」
完。
うさみはメルエールをかわいそうな子を見る目で見た。かわいそうな子。
冗談はさておき、実際にかわいそうな子ではあるのだ。
田舎で暮らしていた女の子が、実はお金持ち(貴族)の娘であったことが発覚し、今までとはまるで違う環境に放り込まれる。
当然それまでの友達とは引き離され。
転校先(魔術学院)は今まで縁のなかった上流階級の集う場所。
右も左もわからない。
成績だってついていけない。
本人のとりえといえば元気なことくらい。
地球時代に漫画かなにかで読んだことがあるような環境だ。
物語では浮いているヒロインを助ける殿方が数名現れる。どいつもこいつも何かの分野でトップクラスだったりするのだ。地位とか強さとか芸術とか勉学とか。
そんなのいるわけないじゃんとか、そんなのいたらいいなあとか、思ったものだ。
そしてそういった最上級男子と関わることで悪目立ちして嫉妬されたり事件が起きたりするのだが、大体は当の男子に助けられたり別の男子に助けられたりして絆は深まりその他もろもろなんやかんやで収まるのでした。めでたしめでたし。そして次の事件が……。
少々浸ってしまったが、そんな物語とメルエールの環境はちょっと似ている。
だからどうというわけではないけれども。
神話が魔法の参考になることはあっても地球時代の物語が現状打破の助けになるとは……。
いやまてよ?
例えば自分。
切羽詰まった窮地に召喚したのが一風変わった相手で……なんてファンタジー入っているけれど新しい出会いが状況を変えるなんていかにも物語らしい。
例えばフランクラン王日姫。
性別があれだが王族なんて登場人物もいかにもである。
例えばワンワソオ黒森子爵嫡子。
孤立している女の子に唯一ちょっかいをかける男子とかそういう視点で見たらあからさまに過ぎる。
……純粋ないじめっ子説もあるけれど、気になる女の子いじめちゃう系男子というパターンは王道だ。
王子様ではないがメルエールより階級上だというのもそれっぽい。
例えばちょっとしたきっかけで態度がガラッと変わるクラスメイトたち。
かわいいもの好きできっかけがあればヒロインと仲良くもなるし距離もとる。
どうだろう、並んでいる要素は実に物語的ではないか。
うさみはちょっとワクワクしてきた。
若い子に囲まれて本当に精神が若返ったのかもしれない。
ひとしきりうふふと想像を楽しんでふと気づくとメルエールがうさみを、なにこいつ変なものでも食べたのでも食べてる者同じよね拾い食いでもしたのかしらという目で見ていた。
「まあそのね、今日お話した人たちと友達になることから始めよう?」
「友達……そんな余裕ないのだけど。忙しくて」
うさみがきまずさをごまかすついでに提案すると、メルエールが暗い顔で答えた。
それを見てうさみは冷静になる。
そういえばメルちゃんは頑張ってるんだよね一人で。
平民から貴族というほとんど違う文化に放り込まれて浮いている。
家が孤立しているせいで浮いている。
授業についていけていないため成績が底辺で浮いている。
浮きまくりである。
この孤立無援の状態で、メルエールは自分に目を向けた。
家のことはどうにもならない。
文化は慣れるしかない。
勉強は自力でどうにかなる。
そう考えたらしい。
うさみは少し共感した。
困ったときに原因を内に求める傾向はうさみにもあったからだ。
自分が頑張れば、自分の受け取り方を変えれば、と考えるのだ。
それを突き詰めた結果、詰んだ状況を受け入れて進展がなくなってしまっているのだけれど。
メルエールも、自分の手に負えない状況を自分だけでどうにかしようとしている。
退学というリミットもあるので勉学から手を付けるのは間違ってはいないだろう。
しかし独力で数年分遅れているのを追いつこうというのはメルエールの能力を超えていたのだ。
メルエールはうさみ同様凡人だったから。
初等部から入れば問題なく貴族社会で生きる能力を得られたかもしれない。
しかしそうでない以上、仮にうさみがいなかったとしても、どこかで退学することになっていただろう。
誰かの助力がなければ。
周りの環境を変えるというのはエネルギーが必要だ。
現状をよしとしているものがいる以上、よりよい環境を提示しなければ対立するし、提示できても手間を嫌って反対されることも多い。
しかし、現状を変えたいと思う者もどこにでもいる。
そういったものは、声をあげても現状をよしとする既得権益者に抑えられる。なぜなら既得権益者の方が有力だからだ。
なので、現状を変えたい者たちは不満という形でエネルギーをためている。
そして環境の方に変化があったとき、噴出するのである。
その際にうまく波に乗ることができれば、少なからず状況は変えられる。
つまり必要なのはきっかけだ。
新しいことなら何でもいい。きっかけになりうる。
新しいことにみんなが適応して当たり前のことになるまでが勝負。
そして今回、うさみの出現が、そのきっかけになりうる。というかなった。
かわいい使い魔を撫でたいと思っていたが、我慢していた人たちがいた。
使い魔は主の分身、体の一部とみなされていて、下手に触るのは不敬という暗黙の空気があった。
そこにうさみが突っ込んで、あとは勢いで集まって触りっこである。
渦中にいたメルエールは何が何だかわかっていない様子だった。
集まったみんなが、人が連れてる使い魔を撫でてみたかったのを我慢していただけとは思わなかったのだろう。
うさみも思ってなかった。
前に、使い魔を褒めたときに反応があったのを思い出し、なら撫でさせてもらえば仲良くなれるんじゃないかと思っただけだ。
うさみが他人の使い魔を撫でて、主もそれを許容した。
それを目にした若い女の子が自分もやってみたくなった。
そして連鎖した。
うさみが、何となくやっちゃダメな空気があったと知ったのはあとのことで、その時ひやりとしたものだ。
タブーを犯したら四方からたたかれるのが本来の姿だろう。
今回は忌避の度合いがそこまで強くなく、かわいいもの好きな者がかわいい使い魔を連れていて、お互いに気になっていたという背景があっただけだ。
結果オーライである。
狙ってやったのならまあまあすごいことかもしれないが。結果オーライである。
ともあれこれで、すでにきっかけからの変化ができているのだ。
かわいい使い魔を軸にして状況が動く。
ここに乗ればメルエールの問題も解決に近づけられるのではないか。
というか、孤立問題はすでに半分解決したようなものだ。
改めて敵視する者が出てこなければ、かわいい使い魔を撫でて笑っていれば大体何とかなるだろう。
中心人物にならなければいけないわけではないのだから。
その上で、変化が安定する前に他の問題への解決策を取り付けることができれば理想的。
他の問題とはもちろん、落第からの退学を回避することだ。
メルエールの独力では厳しそうだとすでに結論済みである。
となると……。
こうしてうさみが立てた計画の一つが。
「だからメルちゃん様勉強しよー」
メルちゃん様お勉強会計画である。