使い魔?うさみのご主人様 6α さーどえくすぺくと 1
魔測球。
黒い球体である。
「簡単に言うと、これを使えば魔術の素養がわかるのよ。エルフだからきっとわたくしたちよりも高いのではないかしら」
メルエールがどや顔&外向け貴族口調で解説をする。
うさみがニコニコしながらすごいね! と褒めると、メルエールはふんすと得意気な顔をした。
うさみは例によって王立魔術学院に、メルエールの使い魔(嘘)として潜入している。
以前、魔法を使ったことで潜入が台無しになったので、今回はばれないようにいく方針だ。
犬の使い魔との決闘まがいの遊戯の申し込みをかわし、教室でメルエールの友達候補を煽ると予想以上に状況が動いてまあいっか若い子に囲まれると自分も若返る気がするなーキャッキャウフフなんてことがあった後。
そしてメルエールが担当講師のおじいちゃん先生にうさみに魔術を教えられないかと相談したことで、じゃあ素養を調べてみましょう、エルフなんてめったに調べられるものでもないですし、とこうなった。
その結果。
「変化なし?」
「黒いままですね」
「闇属性の素養では?」
「いや。あれはあれで違う反応が出る。これは無反応であるから」
「では故障?」
「ふむ、いやこれこのように稼働している」
「ではつまりこのものは魔術の素養はなし、ということですな」
おじいちゃん先生以外にもせっかくの機会と集まった先生方が見守る中、うさみが魔測球に触れたところ、無反応。
つまりうさみは魔術を使うための魔力がないということになるわけだ。
残念そうな皆さんとすごく残念そうなメルエール。
その一方でうさみは魔測球をいじりまわしていた。
なるほど、皮膚を介して魔力を通じさせてるんだ。
魔力は様々な性質を持つが、ほかの物質に対して電気のような振る舞いをする場合がある。
魔力を通しやすい物質というものがあって、銅や金が通電するように、魔力が通る。
この作用を利用してつくられた道具と魔導具を呼ぶ。
この魔測球もその一種らしい。ごく簡単なもののようだけれど、この辺じゃ手に入らないであろう材料を使っているのできっと高価なんだろうなあ。
そんなことを考えながら近くに寄ってきていた蛇の使い魔にあててみる。
光った。
猫の使い魔にあててみる。
光った。
特に意味はないが割と楽しい。
そうやって遊んでいると取り上げられる。
うさみは魔測球の道具としての欠陥があることを伝えるかどうか迷う。
魔測球に接触することで余剰分の魔力が流れて発光するという電池に銅線と豆電球をつなげると光る、程度の仕組みのものだけれど、これだと魔力をきちんと制御できている魔法使い相手だと正しく測れない。特にうさみの場合は魔力の扱いについては基礎の化け物であり、また日常的に通常体外に排出される魔力も管理して利用しているために特に顕著に表れる。具体的には無反応という結果がそれで、体内に保有する魔力はこの場にいる誰よりも多いだろうし、体外にある浮動魔力も収集して管理、利用するので実質的に使える魔力は倍率ドンである。うさみほどでなくても魔力操作や制御に長けた魔法使いなら魔測球を光らせたり止めたりできるだろう。電気が流れやすいほうへ流れるように魔力も同様で、人が生み出した魔力はまず本人の体内にとどまろうとし次点で本人の制御下に置かれようとふるまうのだ。魔力制御に不慣れな者でも、魔測球を手にしてなにか魔法を使おうとすれば魔測球から光が消えるか弱くなることだろう。ともかく説明された意図の通りに計測器として扱うにはは不完全と言わざるを得ないのだ。
上の段落は読まなくてもいいが、とりあえず今回は魔法を使えないていでいくことにしているし、いまさら光らせるのも不審がられるかもしれないと思ったのでやめておいた。
前にうさみの知識や技術を広めようとしたときに失敗したこともある。
レベルの高い魔法使いが使うのでなければ一応機能するだろうから余計なことは言うまいという判断だ。
うさみが遊んでいたのを見ていたおじいちゃん先生がなにか新しい発見をしたようなそぶりでブツブツと考察を始めたが、口を出すのも余計なお世話だろう。
技術はそれぞれの環境で育つのが一番いい。
うさみはやはり凡人で、先入観もあるので、新しい発見があるとすれば妨げになりかねない。
まったく同じように進歩するとは限らないが、未来を知るうさみがいたずらにくちばしを突っ込むのはあまりよろしくない。
というのは建前で必要だったりその場の勢いだったりで余計なことをすることはあるのだが。
ともあれ今回はなしで。
結果としてみんなからすごく残念な視線を浴びせられたのはちょっとなんかもやっとしたけれど直ちに影響はないのである。




