とあるうさみとお肉 1
“使い魔?うさみのご主人様 3α”よりは後のお話。
たぶん。
「お肉が食べたい」
「おにく?」
あるとき、うさみの拠点、お食事タイムのあとの一服の時間にメルエールがそんなことを言い出した。
なんやかんやあって、エルミーナお母さんと一緒に連れ帰って、しばらく一緒に生活していた時のことである。
うさみご飯はほぼ毎日が大量にとれる野菜を中心とした植物系の食材だ。
地球時代は肉とか魚とか大好きだったものだが、エルフになったせいか、あるいは年のせいか、ずいぶん嗜好が変わってしまい、いまでは野菜ばっかりでも気にならなくなっていた。
香辛料をぜいたくに使うしソースやドレッシングも自家製ながら作っているので飽きるほどではないというのもある。
白ご飯に漬物があればあとは別になんでもいいという説もある。
動物たんぱく食べたい欲はたまに街に出るときに昇華してしまう。
街のご飯は野菜より肉や穀物中心のところが多いのだ。あと、海が近いとおさかなとか。
一応普段なら自宅用としても肉を貯蔵していはいるのだけれど、メルエールに召喚される前に使い切っておいたため、連れてきてから一度も食卓にお肉が並んだことはなかった。
メルエールは育ち盛り。地球日本で言うと中学生くらいの活発な発展途上の少女である。
万年ちっちゃいエルフのうさみと違って、まだまだ成長するのだ。
貴族をやめたときに短めにそろえた赤い髪も、伸びてきている。
それだけの期間お肉を食べずに過ごしているわけだ。
お肉欲を我慢できなくなっても無理もないのかもしれない。
「んー、だったら、その辺のウサギさん絞めてきていいよ?」
「え、いやそれはちょっと」
うさみが提案するが、メルエールが難色を示す。
うさみの拠点の近所にはウサギさんが大量に住み着いている。
それはうさみが野菜のあまりを与えているせいである。
たまに遊んだりもする。
しかしまあ多すぎて個体を全部把握はしていないし、自分で手を下すのでなければ食卓に上げるのもやぶさかではないかなあ。
そう思っての提案だったが。
「あんたあんなに可愛がってるのにそういうことよく言えるわね。あたしですらちょっと無理だわ。情が移ってるわ」
メルエールも手を下すのは気が進まないということらしい。
野菜の餌付けを手伝ってもらった弊害か。あとめっちゃ撫でたりしていた。
そういえば、とうさみは思い出す。
うさみが召喚魔術を改ざんしなければウサギさんを召喚していたのだった。
ウサギさんをかわいがる素養はあったのだろう。
しかし、そうするとお肉どうしようか。
どこかに食べに行くのもいいけれど。
そんなことを思っていると、エルミーナお母さんが洗い物を済ませて戻ってきた。
「メル、あまりわがままを言ってはいけませんよ~?」
エルミーナお母さんは成長途上のメルエールと違い、完成したお姉さんである。特にお胸が大盛りでお尻も肉付きが良い。安産型。。
正確な年齢はわからないが若く見える女性である。
メルエールと並ぶと姉妹のようにすら見える。
魔法後進地域でもあり、中世くらいの文化レベルで平均寿命も随分低い地方の出身なのに。
特に平民階級だと三十あたりを超えると一気にくたびれてくる人たちが多い中、エルミーナは自制できてる貴族かと思うような若々しさで、とても一児の母には見えない。
レベルが高いと若さが保ちやすいとかいう話もあるが、別にレベルが高いわけでもないし。
もしかしたらどこかにエルフみたいな長命種族の血でも入っているのかもしれない。
頭巾を外しエプロンを椅子に掛け、メルエールと同じ色の髪を整えながら、のんびりした声で娘をたしなめる姿は、いかに若々しい姿であっても母性を感じさせた。
「わたしたちは~お世話になっている身なのですからね~」
「うぐ」
どうもメルエールはエルミーナお母さんにまるでかなわないようで、よほどのことがなければ逆らうことがないらしい。
逆にエルミーナお母さんの方も、基本的には放任で、メルエールがなにかやらかしてもバッチ来いと受け止めるのが常だったとか。出奔の際の準備の良さも、その一端だったのだろう。
「でも、でもね、あたしそもそも野菜が苦手で、そりゃここの野菜はしなびてないし我慢して食べられるけど、やっぱりお肉……」
で、まあ今回はよほどのことだったということであった。
まあ確かに食事は大事だ。
好みに限らず、栄養という面もある。というか重要度はそっちが上だ。
一人暮らしだと自分の都合しか考えなくなる。
だが、いまは二人共同生活を送る相手がいるのだ。
うさみは平気でも、エルフと人間、種族が違うし、特にメルエールは成長期。
動物性たんぱく質は取り入れたほうがいいかもしれない。
「じゃあ、明日にでも取りに行こうか、お肉」
「え、いいの? やった!」
「あら~」
うさみはお肉を取りに行くことを決めた。
どちらにしろそのうち行く予定ではあったのだ。
時期もあるので機を待っていただけである。
「それなら~、この子もつかってやってくださいな~わたしは~畑の手入れをしますので~」
「やるやる。お肉のためならなんでもするよ!」
「そう? じゃあついてきてもらおうかな」
こうして、メルエールが大変な目にあうことが決まったのだった。