表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
57/494

使い魔?うさみのご主人様 3α せかんどこんぱにおん 4

「こちらへ」


 校舎脇の倉庫の角を通りがかった際にそう声をかけてきたのは高そうな侍女服の、高等部かもしかしたらもう少し上かという女性だった。


 高そうな侍女服というのもなかなか珍しい。

 侍女服は基本的には労働用の服であり主との区別をつけるためのものでもあるので、主が身に着けるものよりもグレードは下がるし地味になる。

 しかし、その女性が身に着けている侍女服はそこらの貴族が着ているものよりよほど高価そうなものだった。

 そんな生地の服で掃除とか洗いものとかできるの?

 そう言いたくなるような。


 逆に言えばそれだけの格の主に仕えているということである。

 つまり、上級貴族か、王族と考えられる。



 そんな女性が導くままに、うさみとベルエールが倉庫の中に隠れると、女性が倉庫の入口を閉じた。


 がっしゃがっしゃ。


「なにごとですか騒々しい。ここは学び舎。あなた方のような方々が騒ぐ場所ではありませんよ」


 がっしゃ「罪人を」がっしゃ「追っております」がっしゃがっしゃ。


「学生とエルフならあちらへ行きました。早く用を済ませ去りなさい」


 がっしゃがっしゃ「ご協力感謝いたします。が、念のため、そちらの倉庫を確認させていただきたい」がっしゃがっしゃ。


「ふん。好きになさいませ」


 がっしゃがっしゃ倉庫の扉が開く。

 武装集団が二人入ってきて中を見回すが、そこには誰もいなかった。


がっしゃ「失礼いたしました」がっしゃがっしゃ。


「まあ扉も閉めずに」


 武装集団が立ち去った倉庫を覗く侍女服の女性。


「行きましたよ」


 声をかけるが、やっぱり中には誰もいなかった。


「……あれ?」





 □■□■□■






 そのころ、うさみとベルエールは明月男爵領にいた。

 黒いもにょもにょの空間接続門の魔法で移動したのである。


「ねえ、うさみ。あの流れであのお姉さんを置いて本気で逃げるのってかわいそうじゃないかしら?」

「いやあ、ぐずぐずしててもいいことないしね」


 ベルエールは侍女の人を心配していたがうさみとしては侍女のお姉さんが出てきた時点で目的を達成していたのでどうでもよかった。

 ということにしていた。

 そこまで気にしていると生きていけなくなるので。


 とりあえずあの侍女のお姉さんの正体は伯爵令嬢にして第三王女の側近だということがわかった。

 ベルエールが脳内でつらつらと語っていたので多分間違いない。

 本人の名前も領の名前もわからないけれど。

 ベルちゃんもうちょっと気にしておこうよ。


 ともあれ、それがわかれば十分だ。手紙の主は第三王女とみていいだろう。

 あんまりねばっても引き時を逃して泥沼にはまりかねない。

 仮定王様と王女様の争いとかにかかわるのは嫌すぎる。


 ということで、うさみはさっさと逃げたのであった。


「それでお母さんはどこにいるの?」

「本宅……じゃないかと思うんだけど」

「半分人質みたいな扱いだって言ってたよね? 幽閉とかされてるのかな?」

「うーん、いや多分普通に働いてるような気がする」


 普通に働いていた。


「あらあら~。ベルエールの母のエルミーナです~」


 ベルエールのお母ちゃんは、温和そうなお姉さんだった。

 ベルエールとは大違い……と言いたいところだが、雰囲気以外は結構似ている。姉妹と言っても通じるくらい似ていた。親子だけど。

 パーツを見ると血縁を納得させるだけのものがあるのだけれど、おてんば系のベルエールとほんわか系のエルミーナではぱっと見の印象が違う。

 ベルエールが年を重ねるとこうなるかと言われるとう~んである。


 そんなエルミーナお母さんは、さっき見た侍女服と比べるとだいぶ庶民的な素材の侍女服に身を包んで、庭を掃除していた。

 王都の王立魔術学院にいるはずのベルエールが現れても特に驚いたようでもなく、エルフを見ても警戒する様子を見せることもなかった。

 そして事情を説明すると。


「あらあら、それじゃあ旦那様と奥様にご挨拶しないといけないわね~」


 とつぶやくと、ここで待つように二人に行って屋敷に引っ込んだ。

 その後、すぐに男性の怒鳴り声が聞こえ、さらに少しして大きな荷物を背負って再び現れた。

 この間、十分もかかっていない。

 いつでも出られるように準備していたとしか思えない手際の良さだった。


「お、お母ちゃん?」


 あまりのことにベルエールが唖然とするほどだ。


「ベルは貴族社会になじめないかも~って思ってたから~」


 うさみは納得した。

 ベルエールは不満そうだった。


「ああ~そうだわ~。うさみさん、お坊ちゃまのご病気、エルフの知識で治せないかしら~」


 それさえ解決すれば心残りはないのよ~というエルミーナお母さん。

 うさみは、子どもを作った相手の男爵に思うところとかないのかと思ったが、他人が深く追求するべきじゃないかと考え直し、聞くのをやめた。


 ベルエールの弟さんは病気は治ったが体調が回復しないという話だったので、神官が使う回復魔法をかけてから、新鮮な野菜を山ほど置いてきた。


 そして、三人は明月男爵領を去った。


 その後、三人は一生魔術王国サモンサの地を踏むことはなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ