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使い魔?うさみのご主人様 3α せかんどこんぱにおん 2

 やらかしたかもしれない。


 座学を受講するベルエールの横で講義を聴いているときから思っていたが、今になって改めて思う。


 ベルエールともども武装集団に囲まれて。


 先ほど、午前の講義の休憩時間中に、手紙によって呼び出された。

 講義をさぼって来て欲しいという内容で、ベルエールは成績に問題があったので普通なら無視するところだったが、今回は相手が悪かった。

 王家の紋章が描かれていたのである。

 なお読み終わった手紙は自動的に消滅した。

 面白い技術である……いやそれはいい。


 聞いてみると、講義は必ずしも出席する必要はなく、試験さえ受かるなら全部出席しなくてもよいのだそう。

 ベルエールも可能な限り出席していたが、他の火をまたぐ実習などとの兼ね合いで出席できない場合もあったという。

それならと優先順位を判断した結果。


 呼び出された場所への移動中に覆面をした武装集団に取り囲まれたのである。

 剣と盾を手に持ち、金属の板を組み合わせた、顔を含めて全身を覆うお揃いの外装を身に着けている人が大多数を占める集団だ。

 見た目だけなら騎士と言ってもいいかもしれないが、その所属を示す紋章のたぐいがどこにもなかった。

 そしてその集団の中に三人、金属ではなく布でできた装備をしているものがいる。

 動きを見るに、その中の一人が全体の指揮官だろうと、うさみは見当をつけた。


「な、なんですか!?」


 ベルエールは完全に腰が引けていた。

 後ずさらないのは後ろも囲まれているからだろう。

 まあ抜身の刃物をぶら下げた武装集団に囲まれれば普通は怖い。

 もし仮に自分が相応の装備をしていたとしても数の差はいかんともしがたい。

 それ以前に相手は大人の男性と思われる体格でこちらはちっちゃいのと、年齢相応の少女である。


「ベルエール男爵令嬢、貴女の使い魔を始末する。抵抗せず受け入れよ」

「え、何ですかそれ!? あなたたちは誰ですか!?」


 淡々と告げる若干くぐもった声にベルエールがビビりながらも言い返す。

 それを見ながらうさみは展開の速さに驚きながら、自分がやらかしたことを確信した。



 うさみは贔屓目に見ても歴史に残るくらいの魔法の腕前を持っている。

 それはもちろんうさみが天才であるから、ではない。

 先の時代に開発される技術を持っていたり、魔法の練習に費やしてきた時間の桁が違ったり、ゲーム時代に得た着想と死にながら開発した魔法の経験があること、あと地球時代の科学知識など、他者が持っていない強みがあるためである。

 だから、全力を出せば控えめに言って騒ぎになる。それは目に見えていた。


 しかし、ある程度注目された方が状況を見極めるためには都合がいいと考えた。

 結果、犬を無力化するために使った【眠る魔法】は今の時代でも再現可能な人がいるという程度の加減で使用した。

 眠らせるという効果は格下を無力化するのに便利なので様々な土地で使用されている。

 魔法を使うのに詠唱だなんだといろいろある手続きを省略する技術も、難易度はともかくメジャーな発想で、広く研究されている。

 対象を指定するのに指さしたりわざわざ使う魔法を宣言したりしてわかりやすいように工夫した。


 要するに適度に加減したつもりだったのだが。

 魔術の講義を受けて、それでもやりすぎたっぽいと感じていたのだ。

 この地方は思っていた以上に魔法後進地域だったのである。

 子ども向けの初心者用講義としてもお粗末に過ぎた。


 そのわりに、使い魔召喚儀式魔法などというオーパーツが存在していたりする。

 意思疎通だの従属、感覚共有だのといった副次効果もそうだが、儀式を介して誰にでも使えるよう魔法を構築するというのは相応の理解度が必要なのだけれど、魔術の講義の内容と比較すると飛躍しすぎている。

 これがどういうことかといえば。


 誰かが何らかの目的で情報を絞っているのだ。


 とうさみは当たりを付けた。

 果たしてそれは、こうして囲まれたことで確信に至る。


 敵対しているエルフという種族であることが原因ではないかとも考えたが、これはここに至るまでの周囲の反応が否定材料だ。

 一見おどろくが、使い魔であることを示す黄色と黒の縞々の布をみるとなんでもないような態度に戻る。

 それだけ使い魔が浸透しており、エルフであろうと危険はないと見られているのだ。


 あとは消去だ。

 こうして抹殺に動くほどに危険視されるとすれば、公衆の面前で使った魔法が原因であると。


 さてそれはまあいいとして。

 うさみとしては、ここにきて困るのはベルエールの存在だった。


 武装集団の排除、逃走、どちらにしても、ベルエールをどう扱うかが問題だ。

 多分この武装集団を動かしているのは相当上の立場の人間である。

 王族の名で呼び出してきた誰かとつながりがあるかどうかは未確認だが、王立魔術学院に根を張っており三十人からの武装集団を動かせて、魔法の情報を制限する立場にいる人物だろう。

 きっと王様か、魔術学院のトップかそのへん。


 正直ベルエール連れて逃げるのが一番楽なのだが、そうなるとベルエールが大事にしているお母ちゃんとかまで波及するかもしれない。

 明月男爵家についてはベルエール本人はそんなに思い入れはないっぽいのでお母ちゃんも一緒に連れていけばいいかもしれない。

 でもお母ちゃんがどう思っているかはわからないから、もし男爵家丸ごととなるとすごいめんどくさいしそこまで面倒見る義理はないかなーと思う。


 ベルエールを置いて逃げた場合、ベルエールがつかまって尋問とか拷問とかされないかという点で不安がある。

 うさみを使い魔にしたことで、なにか余計な知識を付けられていないか確認しようとすることは容易に予想できる。

 まだほとんど何も教えていないけれど、そもそもベルエールには使い魔(嘘)という負い目があるので、そこをかぎつけられるのもマズいだろう。


 そもそも、メルエールを、いやベルエールを手助けしようと思ってやってきたのに、このままではどちらにころんでも、ベルエールが幸せになる道があるとは……。



 そこまで考えて、うさみは決めた。

 申し訳ないが自分の都合を優先しようと。

 迷ったときはそうした方が後悔が残りにくいような気がしないでもない!


「我々については答える権限を持ち合わせていない」

「名乗れない人に従うのは貴族としてちょっと」


 震えながらも武装集団をにらみつけているベルエールに、遠隔で意思疎通をするための魔法を使って連絡を取る。

 【テレパシーできるようになる魔法】と名付けたこれは、使い魔召喚魔法に組み込まれているものとよく似ているものだ。

 これにより黙っていても情報のやり取りが――。


『ガンワソオ様の時もちょっと思ったけれど、うさみが死ねばわりと円満にもう一度使い魔を召喚できるんじゃね。そうすれば演技とかばれるとか心配しなくてもいい生活が送れるかも? あ、でも費用が……、うーんこの人たちが払ってくれないかしら』

『ベルちゃん!?』


 やだこの子思ったよりしたたかかもしれない。

 うさみはベルエールをちょっと見直した。

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