使い魔?うさみのご主人様 3α せかんどこんぱにおん 1
5/22 ベルエールについて注釈
「いぬこわい」
登校中、ガンワソオ黒森子爵嫡子による“使い魔戦闘遊戯”の申し込み。
これをかわすことができず、うさみは子爵嫡子の使い魔を瞬殺した。あ、殺してない。
「ば、馬鹿な……!?」
ガンワソオ少年は何もできずに沈黙した自身の使い魔を見て、目を丸くしている。
ギャラリーの皆さんも、当人ほどではないが驚きを隠さずどよめいていた。
【眠る魔法】。
右手を銃の形にして人差し指を向け、一言つぶやいた。
それでおしまい。
「使い魔が魔術を使っただと」「エルフの精霊魔術か?」「ょぅι゛ょ」「いや精霊らしい反応は……」「かわいい」「どうなったんだ、死んだのか」「眠る魔法と言っていたぞ」
「ベルエール様」
「え、ええ。ガンワソオ様、失礼いたしますわ」
固まっているガンワソオ少年と、ざわめいている野次馬を置いて、うさみはベルちゃんを促してその場を立ち去った。
現在うさみはベルエール明月男爵令嬢の使い魔(嘘)として王立魔術学院に潜入していた。
ベルエール明月男爵令嬢は、以前の生で体感一年一緒に暮らしたメルちゃんこと、メルエールである。ほぼ。
時間跳躍したからといって、全く同じ歴史が繰り返されるわけではなく、うさみが出現した直後は(うさみの確認した範囲では)ほぼ同じだが時間がたつにつれ違いが大きくなる。
そのためウサギさん拉致事件が起きたり起きなかったりする。
メルエールがベルエールになったのもそういった差異の一部だろうとうさみは理解していた。
多分名前の付け方の流行がちょっと違ったとかだろうと予想。
話をした限り反応も来歴もメルエールのものと一致している。
一番怪しいのはうさみの記憶の正確さだが、まあほぼほぼ間違いないんじゃないかなと思う。
さて、魔術王国サモンサには、うさみは明るくなかった。
百年に一度くらい旅行に出かけるのだけれど、サモンサがある地域には近寄る機会がなかったのだ。
理由はいくつかあるが、人族至上主義でエルフであるうさみにとって非常にめんどくさいこと、それから、この地方の魔法のレベルが低くて参考になりそうになかったこと。
この二つが大きい。
レベル、クラス、スキルの仕様のせいか、魔物が弱い地域では魔法が発展しにくい。
スキル頼りだけで済むからだ。
サモンサが属する地域も例にもれず、あまり発展していなかった。
魔法はうさみのライフワークである。
死んで時間が戻ると、全部なかったことになる。
体を鍛えても、財産を蓄えても、子孫を作っても、全部。なかったことになるのだ。
そんななか、唯一残るのが記憶である。
魔法行使能力も初期化されるので時間跳躍直後から魔法を自在に、とはいかない。
けれど、魔法の研究は世界の研究につながるし、なにより人生の後半を生きるのに必須なので、重視を要するのである。
あと元日本人としては最低限文化的な生活をしたく、そのために魔法が必要なのだ。
ともかく、人族至上主義でも、魔法が発展していれば、あるいは逆に魔法が発展していなくても、エルフにも開かれた国ならば、勉強や観光目的で旅行にくることがあったかもしれないが、両方となるとさすがに関わりたくない。
今でも、メルエールのことがなければこうしてやってきたりしなかった。
よかれとおもって鍛えた結果が結果だったわけで、なんか悪いことしたなあと。なにかできることはないかなあと。
メルエールの死を知ってから百年引きこもって消化して、自分も何度か死んでもこれである。
当時は後悔の念で何もする気が起きなかったものだ。畑を耕してご飯を食べるくらいしかしなかった。
ともあれ、メルエールに対し勝手に罪悪感を覚えてしまったので、他生の相当人物ベルエールがうまいこと人生を送れるように手助けしようという趣旨で行動しているのである。
名前がちょっと違うけれど、顔も立場も同じ、というのは結構あるのでそこはまあ割り切れる部分である。
さて、そんなわけで因縁付けられたのを撃退した後、ベルエールの所属する教室へ向かい、思わぬ再会をした。
ウサギさんだ。
白い子ウサギより前に拉……召喚された子である。
まさか同じ教室になるとは。
奇縁ここに極まれり。
なんて考えながら見ていると、主の女学生がじろりとにらんで。
「なにか?」
と言ってきた。
うさみは内心うわーこわーと思った。
しかし、こういう時の対処法は完備している。
「あ、その、かわいいなって」
にへらと笑って相手を褒める。
自慢ではないがうさみはかわいい。その外見はゲームキャラ由来なので、当然といえば当然だ。
さらに、子どもにしか見えない体格も、こういう時は味方である。
上目づかいがポイントで、反応は大きく動きをつけて、あるいは逆に小さく小動物系を意識してもよい。
これにより、世のおじいちゃんおばあちゃんはイチコロである。
若い婦女子もよく釣れる。
おばちゃんは手ごわいが、利害が絡まなければいける。
野郎が釣れたらロリコンなので気を付けなければならない。
「そ、そう? 当然ね。エルフもまともな審美眼をもっているのね」
女学生はそう言うとうさみから目をそらした。ちょっと頬が赤くなって口元が緩んでいる。
これをみてうさみの目が輝く。
この子押せば落とせるんじゃない?
べつに女の子同士でちゅっちゅするとかそういうやつではない。
どうも友達がいないらしいベルエールの友達に、という意味である。
今のやり取りで頬を染めるということは考えられる可能性は三つ。
ひとつ、女の子が好き。
ふたつ、ウサギさんが褒められてうれしい。
みっつ、とにかく褒められるのがうれしい。
いずれにしても、牙城は強固であるように見えない。
とはいえ思い込みで拙速に動くのは気が早い。まずは情報収集だ。
うさみは心の中の、ベルちゃんお友達予定リストに書き込んでから、ベルエールのもとへ戻った。