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召喚初心者とうさみ 1α ふぁーすといんぱくと 3

「【月と星の結界の魔法】【VRゲームっぽい魔法】――解除!」


 あれから、一時間足らずの時が流れた。

 うさみの小屋のお客様部屋にある竹編みのベッドでうさみは一足先に目を覚まして魔法を解除した。


 使い魔召喚室の利用予約時間以内に帰らないと退学という条件の中で、大奮発して最大限の特訓を施した。


 【月と星の結界の魔法】、これはうさみとウサギさんたちの能力を一時的に増加するためのもの。もう一つの魔法を維持するために必要だったもの。


 【VRゲームっぽい魔法】は暇つぶし用に多生を通じて開発中のものであるが、今回のカギとなった魔法だ。

 まるで現実世界のような仮想空間に意識を飛ばして遊ぶためのものである。

 内部で死んでも現実の体は死なないことと、体感時間の速度を変更できるところまでは調整できており、今回一万倍速に設定した。

 プレイヤーキャラは詳細を設定できず本人をそのまま流用することになるが、レベル・スキル・クラスは生まれたばかりの状態になり、一から。

 未完成なので消費魔力も維持制御に必要な労力も莫大で、うさみがため込んでいる魔力を開放してもあまり長くはもたないのだが、今回はタイムリミットがあったのでちょうどよかった。


 以上のような環境を作り出して、体感時間で一年ほど、みっちりとメルエールを鍛え上げたのである。


「ああ、やっと帰ってこれた……死ぬかと思ったわ」


 お手伝いのウサギさんに囲まれていたメルエールも身を起こす。

 一年の間にだいぶ気安くなったメルエールにうさみはからからと笑いながら返事をする。


「やだなあ、百回死んだじゃない」


 仮想空間内で、である。

 死ねばプレイヤーキャラの設定が初期状態になるようにしてあった。

 仮想空間は現実世界と同じ――現状の開発段階ではそうせざるを得ない――なので、レベルとクラス、スキルが存在し、同様の恩恵を得ることができる。


 もちろん仮想空間、ゲーム内でどんなに鍛え上げても現実でそのままスキルを習得できるわけではない。

 しかし、スキルの仕様には裏技ともいえる抜け穴があるのだ。

 それは、高スキル相当の動きが実際にできるなら、相当するスキルまで一気に上がるということだ。

 たとえばスキル五十ないと発動できない魔法を発動させることができるなら、発動させた瞬間にスキル五十になる、みたいな。

 一部の天才が一足飛びに成長するのはこの仕様のおかげかもしれない。


 そんな一部を除けば現実には、スキルに先んじてそれ以上の成果を身に着けられることは滅多にない。


 しかし、現実そっくりなゲーム内で身に着けて、現実に反映すれば?


 というのが、今回のうさみの考えたすごい特訓の全容であった。


 死んだら一からやり直しにしたのも、現実で鍛えなおす方法を身に着けるため。

 ゲーム内でスキルを獲得し、実感し、スキルの補助なしで再現できるまで反復練習して、全部リセットしてもう一度。

 かつてうさみも本物のゲーム内で経験した練習法でもあり、死んで時間跳躍した後に大なり小なりこなしている方法でもある。それなりに成果を出す自信があった。

 百パーセント継承できなくても、七割とか半分とかでも十分役に立つし、一度高みを覗いた経験は残る。コツを身に着けている、と表現してもいい。即座にスキルにならなくても今後を考えれば十分役に立つだろう。


 それに、うさみは経験はともかく才能としては凡人だ。

 そのうさみにできるんだから、他の人でも大差ない程度で再現できるだろう。


 その考えは、精神的負担を考慮しなければまあまあ正しかった。

 うさみにとってゲームの中で死ぬのはしょせんゲームだった。ゲームで死ぬのは当たり前。二ドットの高さから落ちれば死ぬ。そんなゲームもあった。

 ただメルエールはゲームというものを知らなかったし、死ぬのは死。死死死死死……。

 殺意敵意を放つ強烈なウサギさんに囲まれ襲われ鍛錬し続ける。

 死んだ方がマシだった。

 そして死んだら一からやり直し。

 地獄か。いやそのだいぶ手前の賽の河原か。倍率ドンさらに倍か。


 まあ、一度限界を超えて喚き散らしたのがよかったのかもしれない。

 うさみも自分がやべーことをしていたと認識し、また、ウサギさんの一部がメルエールの味方に付いた。

 その筆頭が、メルエールに召喚されかかった例の子ウサギだったのは偶然か必然か。

 そしてアニマルセラピーと特訓内容の見直し(若干の手加減と休憩の増加)のおかげでどうにかメルエールは生き残ったのだ。精神的な意味で。



「それじゃ、時間ないから始めようか。最後に確認するけどいいんだね?」


 うさみが確認すると、子ウサギさんはこくこく頷いてたしたしと地面をたたいて催促した。はよ。


「じゃあメルちゃん、いくよ? 【使い魔契約をさせる魔法】」


 【使い魔契約をさせる魔法】はメルエールに特訓させてる間に開発した魔法だ。

 文字通り他者に使い魔契約をさせることができる。

 魔術王国サモンサで使われている魔術儀式を再現した魔法である。

 ただし、従属契約は大幅に緩和してある。

 それ以外の遠隔意思疎通と感覚共有はきちんと再現してあった。

 うさみとしては危険なのであまり気が進まなかったが、子ウサギさんがええんやでと後押しするのでじゃあいいかと。


『我、魔術士メルエールの名において、汝に名を与える。汝が名はハクセン』


 ぷ。


 メルエールの命名に子ウサギさんが呼応する。

 これで使い魔契約の儀式はおしまい。

 ひとまず退学を回避するだけの条件は満たした。

 あとは帰るだけである。


 うさみは黙ってメルエールと子ウサギさんに背を向けると空間接続の魔法を使う。

 黒いもにょもにょしたものが出現する。

 この中に入れば使い魔召喚室へと戻ることができる。


「うさみ、いろいろとありがとう」


 メルエールが子ウサギハクセンを抱き上げてうさみに声をかけた。

 しかしうさみは振り返らない。


「残念だなー、時間があればおいしいご飯をごちそうするんだけどね。そろそろタイムリミットだ」


 そういううさみの声にちょっと涙声が混じっていた。

 一年一緒に居たので情が移ったのである。こうなるとお別れがつらい。わかっていたことだが。

 なんだか恥ずかしくてうさみは振り向けなかった。


 メルエールはもちろん気づいたが、うさみの気持ちを汲んで気づかないふりをした。


「うん、えっと、あたしからは連絡できないけれど、遊びに来てよ。こんなすごい便利な魔法があるんだし」

「そうだねえ、そのうちにね」


 メルエールとしても、一年間の地獄……じゃない特訓で身についたものは多く、休憩中にいろんな話をしたり、そもそも仮想空間内には自身とうさみ、あとはお手伝いのウサギさんたちしかいなかったこともあり、ずいぶん仲良くなった自覚があった。

 ずっと一緒に居た相手とのお別れはやはり寂しい。


 しばらくの無言。

 そして。


「ほら、時間がないんだから」

「ええ、それじゃ、またね」

「うん、またね」


 こうして一時間/一年間を一緒に過ごして、うさみとメルエールは別れた。





 □■□■□■□■





 十年ほど後、うさみは魔術王国サモンサを訪れた。

 そしてメルエールとハクセンを探したが、見つからない。


 調べてみると、王に歯向かって殺されていた。


 うさみは百年くらい引きこもった。

 そのあと千歳まで生きて死んだ。

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