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召喚初心者とうさみ 1α ふぁーすといんぱくと 2

 空間を接続する魔法を介して引っ張り込んだはいいものの、なぜだか光に目をやられて身動きできない状態でしばらくうずくまっていた女の子は、回復すると同時に。


「ひっエルフ!?」


 ビビッて。


「ってなんだ子どもかそれなら」


 つぶやいて。


「先手必勝ぅおああああああああいたたたたたたああああああ」


 襲い掛かってきたので腕をひねり上げた。

 昔取った杵柄というやつで、過去……いや未来? に、練習する機会があったため、素人を取り押さえるくらいは、たとえ体格差があろうとそう難しくはなかった。

 それにしても素手でノータイム攻撃を仕掛けてきて、今は悲鳴を上げている女の子を、うさみは元気な子だなあと思いました。






「そちら様の意図を無視して召喚使役しようとして申し訳ありませんでした」


 魔術王国サモンサの王立魔術学院中等部一年三組所属メルエール明月男爵令嬢と名乗った少女は、両膝両手を地につけて、子ウサギさんに頭を下げる。

 子ウサギさんは、ええよええよきにすんなという風に前足でぽんぽんとメルエールの肩をたたいた。


 何が起きているかというと、拉致されそうになった子ウサギさんに対して謝罪をさせているのであった。

 ウサギさんの居住エリア(境界は適当)の中、たくさんのウサギさんたちに囲まれて。


 うさみが野菜をあげているウサギさんたちは、低レベルから高レベル、魔物化から仙化しかかっているものまで、その種類は多岐にわたる。

 連れ去られそうになったのは子ウサギさん。見た目通り低レベル個体で、特徴といえば白兎というところくらい。

 森の中なのに毛皮が白いのは珍しいので、たまにうさみの目にも入っていた。


 他のウサギさんはといえば、ツノや牙が生えていたり、黒かったり大きかったり金色だったり浮いていたりといろいろだ。

 そういう特徴の濃い個体が四方八方からメルエールをにらんでいた。


 このような環境を作り上げ、うさみはメルエールをいびり倒して情報を抜き取った。

 メルエールはレベル八、取り囲むウサギさんの平均は七十超、最大九十八という大差であり、見た目にそぐわぬ存在感と威圧感を与えていたので、メルエールは震えながら従うしかなかった。


 なぜここまでするかといえば、うさみが見た目で舐められるからだ。

 うさみは死ぬちょっと前までずっと同じ姿なので、こればっかりはもうあきらめており、こういったケジメを付けようというときには威圧を外注しているのだった。


 そしてうさみが満足するまで情報を抜き出してから、最後に子ウサギにごめんなさいさせたのである。


「許してくれるって。よかったね! はいそれじゃあみんなかいさーん。おつかれさまでしたー!」


 うさみがパンパンと手をたたくと、周囲を囲んでいた無数のウサギさんが散っていく。

 最後に残ったのは憔悴しきったメルエールと、うさみ、あと子ウサギであった。

 そしてうさみも立ち去ろうと、おうちの方へ足を向ける。


「あ……」


「ん?」


 背を向けたメルエールがなにか言いたげに声を漏らしたのでうさみは振り向いた。

 すると身を起こしていたメルエール、ぽろぽろと涙を流していた。

 子ウサギがどうしたん? とばかりにメルエールを見上げている。


 げげげ。いじめすぎたか。

 何十年かまともに人と交流していなかったので、というのは言い訳だろう。

 コワモテのウサギさんを選んで囲んで敵意をぶつけさせたのはやはりやりすぎだったのではないか。

 いやそれとも、ネチネチと「使い魔? 召喚? 相手の意思を無視して無断で呼び出して? 隷属? それってどうなの自分がやられたらどう思うの? え?」などといびり倒したのがマズかったのだろうか。


 なにはともあれ、うさみは慌てた。


「え、ちょ、あー、ごめ、やりすぎた?」

「うう……いえ、そうじゃなくて」


 メルエールが泣きながら語るのには。

 これで学院退学であり、それはつまりお家に多大な迷惑がかかることになり、そうなると半分人質な田舎のお母ちゃんがどんな目に合うかわからない。

 そんな未来を考えると泣けてきたのだというのである。


 うさみは泣いた。

 もともと結構共感しやすい質であり、お母ちゃんが、というのがまた泣ける。

 なぜならうさみは異世界へやってきてしまったのでもう母親に会うこともできないのである。

 そのことで泣いた夜もあった。


 元のそのまた元の世界であるところの地球時代、お母ちゃんにはずいぶん不孝をしたにもかかわらず、ここでこうして生を繰り返している身。

 そんなうさみの、お母ちゃんへの想いを久しぶりに揺り起こされてしまったのである。


 そうやって共感してしまうと、今まで何度も使い魔召喚を妨害していたこともなんだか悪いことしたような気分になってくる。

 赤の他人なら無視できる。

 知っていた人でも、目の前に居なければ黙殺できる。

 でも、目の前にいる人に共感してしまうと、ついつい踏み込んでしまう。

 悪い癖だと思っているが、こうなってしまうと自分では止められないのである。


「わかったよ、じゃあわたしが何とかしてあげる」


 うさみは泣きながら請け負った。


 なお、メルエールは泣きながら何言ってんだこいつという顔をした。

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