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召喚初心者とうさみ 2

 魔術王国サモンサは、魔術士によって作られ、魔術によって支えられ、魔術によって発展してきた国である。

 この世界に満ちている危険に対し、魔術を武器に平和を維持している。

 周辺国との軋轢など、どこの国も抱えている問題は同じようにあるにせよ、技術優位によって地位を維持してきた。

 特に召喚魔術に秀で、出世のためには必須の技術となっていた。

 そのため、王立魔術学院で貴族の基礎教養として教えられており、召喚魔術を扱えなければ貴族ではない、とは言わないまでも、あっふーんそうなんだーへー、とさげすんだ目で見られる程度には重要な位置づけであった。


 そういうわけなので王立魔術学院中等部では使い魔の召喚という必修課題が存在する。

 使い魔というのは魔術士の手足として、耳目として働く召使いのようなものであり、感覚共有や遠隔通信などを可能とする特別な魔術で結ばれたある種一心同体の存在だ。

 専門の召喚術士になるにせよ、他の魔術を専攻するにせよ、召喚術の進んだ国による支援も含めれば初歩の儀式で召喚できるため、王立魔術学院出身の貴族でなくとも多くの魔術師が使い魔を持っていた。


 そしてそんな初歩の儀式を失敗するのはまあ恥ずかしいことであり、不慮の事故などで失敗しても二度目にはまず間違いなく成功するものであり、三度失敗するならもう魔術学院やめろという、つまり必修課題なので落とすと退学。

 というか早い子であれば初等部ですでに召喚している者もいるくらいだから、学院どころか魔術士諦めたらというくらいの事態。当然だが、魔術士諦めたら魔術王国サモンサでは貴族やっていけない。


 少女メルエールはそんな状況に追い込まれていたのである。

 そして三度目でようやく召喚に成功した。なんとか一応ギリギリ首の皮一枚つながったのである。

 めでたしめでたしおめでとう。




 ■□■□■□■□




「めでたしめでたしおめでとうじゃないわ」

「えーよかったじゃん。社会的に死なずにすんだんでしょ」


 メルエールは儀式室担当の教師にこってり絞られたうえ、一人で後片付けをさせられた。

 自室の勉強机に上体を投げ出し大きく息をつく。

 赤みがかった長い髪がぶわっさーととっちらかって、机に置いてあった筆立てををひっくり返した。


「あーもう」


 ためいき。

 今日もなかなかに散々な日だった。

 朝一で儀式を始めたのに先生のお小言から解放された後、儀式室の片づけが終わったら、もう夕方だった。

 召喚に成功したのはよかったことだ。

 しかし。

 問題があった。


 メルエールは自分の使い魔を見てもう一度ためいきをつく。


「人の顔見てためいきをつくのはどうかと思うよ」


 使い魔うさみ。

 エルフ。

 外見は可愛らしい。

 金色の長い髪はさらさらで、うらやましくなるような艶があり、深い緑の瞳はぱっちりと大きい。肌は透き通るような白だが頬はわずかに桃色に色づいている。

 初等部くらいのちっちゃさで抱っこして膝の上に置いときたい。そんな生物。


「あんた以外のエルフもみんなそんなちっちゃいの?」

「知ってる限りでは体格は人族と同じくらいだよ」

「あっそう」


 つまりこの使い魔エルフは幼体だということだ。

 通常、知恵があり、意思疎通できる使い魔は当たりとされる。

 例えば幼竜や妖精、小妖魔。あるいはエルフや獣人などの亜人などだ。

 使い魔になれば動物や虫などでも必要十分な知能を付与されるし、従属の術式も含まれているので使役するには問題ない。

 しかし、やはりはじめから言葉による意思疎通が可能な種類の使い魔は便利だし、使い魔自身である程度物事を判断して動けるため、複雑なことも丸投げできるし、秘書的な仕事もさせることができる。

 そういう意味ではエルフは当たりである。


 成熟した個体であれば。


 残念ながらこの個体、うさみは見る限り幼体であった。

 礼儀も知らない。主人たるメルエールに対してタメ口だし。

 片づけを手伝おうともしなかった。判断力や行動力が足りてないのだろう。

 メルエールが現状を教えたらめでたしめでたしおめでとうである。空気読めないのか。ズレている。


 これが獣人などの早熟種の幼体であればまだいい。すぐに成長するし物覚えがいいからだ。

 しかしエルフは長命種である。

 成長も相応に時間がかかるという。気が長いのが種族的特徴だそうだ。

 ……つまるところ、エルフの幼体というのは人間であるメルエールの使い魔としては微妙なのである。


「……あー、ハズレ引いたー」

「自分が呼び出しといてひどい言い草だね。三回目まで失敗してたよりはいいじゃない」

「うさみ、あんた口が減らない子ね」


 張本人のうさみが余計なことを余計なことをケラケラ笑いながらいうものだから、メルエールはイラっとくる。

 そこでひっぱたいてやろうかと思って手を上げると、絶妙に届かない場所にいるのだ。ますますイラっとくるが、息をついて手を下ろす。

 どうしても殴りたいわけじゃない。

 貴族の使い魔としてふさわしくふるまえるよう教育は必要だろうが今はその気力もなかった。


「もう寝ます。あんたはその辺で適当に寝なさい」


 ゆらりと立ち上がり、使い魔に指示を出すと、メルエールのはベッドに入って横になった。

 しばらくはこの先に山積する問題のことを考えていたが、疲れていたせいかすぐに眠ってしまったのだった。

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