剣初心者うさみ 125
さて五年後。
二十歳となったケンが無事に帰ってくる。うさみも共に。
世間に揉まれ、様々な経験を積んだケンの帰還は皆に喜ばれた。
精神的にも、肉体的にも一回り大きくなって帰ってきたケンはハン師範の目論見を概ね満たし、シ家と道場を継ぐことを前提として改めて修練に入ることも受け入れた。
唯一嫁を連れ帰ることができなかった点が残念ではあったが、これはもともとできればという話でもあり、概ねめでたしめでたしと占めてよい結果だった。
「俺うさみと結婚するから」
と、ケンが言い出さなければ。
「お断りします」
と、うさみが断らなければ。
一般的な成人男性とうさみを並べると親子にしか見えず、鍛えられた男性であればなおさらで、結婚などすれば幼女趣味と噂されてもおかしくない、ということは置いて。
かわいらしくそっけないわりに実は面倒見がよく気が利く、さらに魔法に通じるうさみと五年を共に戦い抜いたのであればそういう感情を抱くことになってもおかしくはないし利を見ても取り込みたいと考えるのもまた同様だ。
ジョウがうさみにべったりだったし、子どもたちと一緒に旅立ってしばらく寂しがっていたくらいだ。
どうも子どもの面倒をよくみていたらしい。いつも剣を振っていたような気がするがそれだけではないのだ。
幼少期は構ってくれる年上のお姉さん。
大きくなってからは庇護欲を誘う小さな女の子。
ジョウと同様かそれ以上に、ケンもうさみに強く執着するとしてもわからなくもない話だ。
とはいえ、うさみは断った。
「わたしより何百年も早く死ぬ人はちょっと」
事実上の人間お断り宣言であった。
とはいえ、この言葉を口にした時にうさみが見せた寂し気な様子を見せられれば、うさみに好意を持つ者は何も言えなくなるというものだろう。
ともあれ、ケンは振られることとなった。
その結果というべきか、しばらくしてうさみは道場での寝起きをやめ、荘園に生活の拠点を移した。気まずかったのだろうというのが大方の見方だった。
バルディの子どもたちとジョウは喜んだ。
だが、ケンの方はいい気がしない。
そのため、ケンとバルディたちは徐々にぎくしゃくし始めた。
バルディの好色という風評も悪く作用したかもしれない。
その状況の中で動いたのは、うさみ本人だった。
「喧嘩するなら出ていきます」
そう宣言して一距両疾流の前から去ったのである。
こうして、どうにも残念な最後ではあるが、バルディとうさみとのかかわりはここまで。
一距両疾流はうさみという人物を失い、バルディは小さな友人にして恩人を失ったのだった。
なお実際は年に何度か顔を見せに現れることもあったのは秘密でも何でもない。
剣初心者はこれでおしまいです。
ここまで読んでいただいてありがとうございました。
続きは今書いている別作品が終わったらになります。多分十月までには?