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剣初心者うさみ 124

「ケンよ。ここにいる者はお前が俺の後を継ぐことを前提にしてこの十年を過ごしてきた」


 改めて、ハン師範がまじめな口調になって話しはじめると、皆が姿勢を正した。


「だからお前の気まぐれでこれを覆すなどということは許さん――とは言わん」

「え」


 また厳しいことを言われるかと思っていたのだろう、ケンが予想を外されて驚いた顔をした。


「お前が本当に継ぐ気がないのなら継がせても意味がないわけだが。そうではないんだな?」

「ああ。じゃない、はい」

「継ぐ気がないわけじゃないが、納得できないと」

「! そうです」


 頷くケンを見て、ハン師範は少し間を開けてから、言った。


「それならしばらく猶予をやる。もともとすぐにすぐというわけではなかったわけだしな。五年の期限と、いくつか条件を付けるから、ちょっと世界を見てこい」


 師範が詳しく話したところによると。

 魔物狩りで生計を立てつつ道場の、剣の街以外の場所を見てこい、とそういうことであった。

 条件とは、一年間は道場と協力関係にある徒党で下働きをしつつ魔物狩りの生き方を学ぶこと。

 定期的に手紙を出し所在が分かるようにすること。あるいは顔を見せること。これを怠れば捜索を出す。なお、いっぱしの剣士が少し連絡が途切れた程度で過保護な真似をされたら大恥である。それが嫌なら連絡を途切れさせるなということだ。

 期限は最大五年。これはハン師範の猶予だ。ケンが遅くにできた子であるのでそれまでに目途をつけておきたいと。

 出来れば嫁を見つけてくること。流派の嫁であることを理解してうまく立ち回れるものが望ましい。


 最後の条件を聞いてケンは真っ赤になった。


 結果として、ケンはこの条件を受け入れ、さっそくにも旅立った。

 手ほどきを任せられたのはチャロンが頭を張る徒党である。

 道場直属の傘下ではないが、門下生であり連絡が取りやすく、人柄が比較的まともであることで選ばれた。




 話が決まった直後、ケンが準備と飛び出していった後に、奥様がハン師範に尋ねた。


「大丈夫なのですか?」

「それは誰にもわからんな。万一は絶対にないとは言えん」

「でしたら!」

「だが、ああいうのは本人が納得しなければおさまらんだろう。そこのバルディはそうでもなかったみたいだが」

「いえ、私は好いた女性が居たので」

「二人もね」

「ははは……」


 墓穴はどこにでも掘ることができるものである。

 バルディが苦笑いで流そうとしている横で、奥様はまだ納得いかない様子である。

 それを見て、ハン師範が続けた。


「アレは少し大事にしすぎた。シ家と道場の先を切り開いていくには、道場の中だけで完結しているようではいかんだろう。どちらにしても外の世界を見る機会を与えるつもりだった。予定より少し大事になっただけだ」

「可愛がったことは認めますが……」

「まあ、あたしよりは甘やかしてたわよね」

「そ、そうかしら?」


 大事な跡継ぎであり、ジョウとバルディに不安定な立場を強いていることもある。

 万が一もないようにと大事に育てられたのだ。

 その分バルディに雑事が回ってきた部分もある。


「不安ならお目付け役を頼もうか。受けてくれるといいが」


 ということで、お目付け役が送り込まれることになる。

 その人物は少し渋っていたが、奥様の押しに負けて承諾したのだった。


 名をうさみ。

 一距両疾流の秘密兵器である。

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― 新着の感想 ―
[一言] 確かに次期当主(予定)の身に最悪の事態が起こることは避けられるが、ちょっと過保護すぎない?
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