剣初心者うさみ 123
「はっきりさせておきたいのだけど。ケン、あなた道場を継ぎたくないの?」
気まずい空気を押しのけて、今まで黙っていた奥様が口を開いた。
なるほど重要な点である。
「そうじゃない。ただ俺に資格がないと」
「資格のあるなしを決めるのは当主で道場主で師範のお父さんでしょう?」
「う」
「まあそうだな」
資格などというものがあるとしたらそれは本人が決めることではないだろう。
ケンは懸命に修練を重ねてきた。
ハン師範の跡継ぎとして育てられ、十分に応えてきたのだ。
資格を問うならば、どうなるかは――。
「そうだな、ケン。先にもう一つ尋ねよう。流派を継ぐのを辞退してどうするつもりだったんだ?」
「どうする、とは」
「そりゃ、お前も一人前の歳なんだ。俺を継がないなら自分で稼いで生活費を稼がにゃなるまいよ」
「それは」
「剣の腕しかないお前が稼ごうと思ったら、どうすればいいか、バルディ?」
「そうですね。どこかに仕えるか、魔物狩りをするか、道場で教える側になるか、というでしょうかね」
突然話を振られたバルディはまずまず無難な答えを返す。
かつて自分が考えていた将来の候補だったものだ。
「道場で教えるのは師範代の仕事だ。ケンにはまだその資格はない。資格を得るまでの間の稼ぎにはならんな。どこかへ仕えるか。実績がなければ難しかろうな」
「なら魔物を狩って稼ぐよ」
「並行してお前の言う資格を手に入れるために修練するか?」
「そ、そうだよ。それで義兄さんより強くなれば――」
その時こそ、一距両疾流を継ぐ、と。
そういいたかったのだろう。
「お前は馬鹿か」
「!」
しかし、ハン師範が言葉を遮った。
「うちは剣術道場だぞ。強くなるための場所だ。自分の強さが足りないと思うなら、なぜまず同門の先達に頼らん? 師範や師範代はそのためにいるんだぞ? それに剣術道場で強くなれなかった者がよそで力をつけて剣術道場を継げると思うかね?」
「ぐ」
父親に言い負かされる息子の図はどうにもいたたまれない気持ちになる。
ところどころ穴があるのだが、気づかないのも周りを囲まれたこの状況によるものだろうか。
周りが皆敵に見えているかもしれない。
「師範、さすがに今のは。誘導尋問というものではないですか」
「そうだよ?」
「なんだよそれ!」
ハン師範が笑う。
ケンが何となくからかわれたと感じて反発した。
そしてバルディが改めて誘導尋問というものを説明すると。
「なんだよそれ!」
二度目。




