剣初心者うさみ 119
「魔法は想像力が大事って誰が言いだしたか知らないけど、まあそれは半分くらいただしいんだ。どれくらい大事かっていうとまあ全部なんだけど、現代の魔法使いは別にイメージとか適当でもスキルで覚えれば使えるんだよね」
「はあ」
「魔法使うのに必要な想像力っていうのがどれくらい必要かわかる?」
「いえ」
「自分の想像の中の炎に触って火傷するくらいで初歩」
「想像の中の炎に?」
「うん。剣士で言うなら想像の中の剣で自分の腕に切りつけたら腕が落ちるくらいの想像力があればまあいっぱしの魔法使いくらいになれると思う」
「それは……」
「原初の魔法使いはそうやって魔法を扱ってたし、今でも同じようにできる人はいる、らしいよ」
結婚の準備期間が約一か月。
その忙しい合間を縫って、バルディはうさみと話す時間を作ってもらった。
目的は礼を言うためだ。
夢の修練場、あれを用意したのは想像の通り、うさみであった。
あのような魔法のような夢を管理できるのであれば、それこそ魔法使いだろう。
ならば知る限りうさみのほかに候補はいない。
少なくとも知らない。
ジョウも修練の中では追及を止めていたが、あの時点ですでに半ば認めていたようなものだった。
なのでうさみに礼を言いたいとジョウに相談したところ、許可が出たのだ。つまり、ジョウも認めたということである。
そしてそれだけでもない。
ともあれそういった経緯で顔を合わせたところ、うさみが魔法についての講釈を始めたのである。
バルディは訝しく思いながらも相槌を打っていた。
「今でも子どもがうっかり魔法を使ってしまうことがある。小さい子は自分の世界で生きてるからね、現実と想像の境界があいまいなの。思い込みの激しさが行き過ぎる状態ってところかな。修練でその想像力を身につけようとすると、才能があって十歳から修練を始めて三十歳くらいまでかかるとか」
「子どもでも魔法を使えるのにですか?」
「いい歳した大人が想像をたくましくさせる修行をまじめにやるには常識が、世界の法則が邪魔をするからね。人生経験を積んでいればいるほど、頭が固くなるもの」
「常識に囚われないものが魔法使いになれると」
「そう。自分の中で育てた想像を、自分の外に持ち出して他人にまで影響を与える。そんな非常識なことができるのが魔法使い」
うさみの言いたいことに心当たりがないではない。
しかし。
「うん、今の魔法使いってそんな無茶なことをしているのは耳にしないよね。そんな想像力がたくましい人が、その想像力を基にして魔法を使っている場合、現実と想像の境界が曖昧になっちゃう。そうなると、まあ一言でいえば暴発してしまうことが多くなるんだ。だから決まり事を作った、正確にはそういう流儀が生まれた、ってだけなんだけど」
「決まり事」
「うん。スキルで魔法を使えば安全に使えるでしょう? それを参考にしたんだと思うんだけど。こうすればこうなる、と決まった行動と結果を紐付ける。例えばこうやって指を鳴らしたら指先から火が出る、とかそういう決まり事をつくるわけ」
「鳴ってないけど」
「まあなったていで聞いてよ。あくまで例えばだから。で、みんなが指を鳴らしたら指先から火が出るものだと認識する」
「うん?」
「指を鳴らせば火が出る魔法になる、ということが当たり前になれば、新たに修得する者にとって当たり前のこと、そう思い込んでいるのなら、想像しているのと同じ結果になる。今度は常識が味方になるわけ」
「そして、容易に魔法が使えるうえ、指を鳴らすという段取りを踏まなければならないから暴発もしにくい?」
「そうそう。実際にはもっと複雑で、特別で、さらに組み合わせて。育成と運用の効率を上げていったの」