剣初心者うさみ 115
「さあ、あたしを倒して嫁にしてみせろぉ!」
「やってみせましょう!」
「お前ら、人前だって忘れるなよ?」
ノリノリのおジョウさんに呼応するバルディ。それを見たハン師範がため息をつく。
外部を招いてのものではなく、流派内での試合ではあるが、ハン師範を始め、奥様、ケン、師範代、加えてミーナ、代官、他、一定以上の高弟、あとうさみが見届け人及び見物を認められていた。
ケンなどは無邪気に姉を応援しているが、他の者は一応バルディを応援しているはずだ。この機を逃せばおジョウさんは高望みしすぎのいかず後家待ったなしなので。
ヤッテ家まで巻き込んで大事にした以上はそうなってしまうのだ。
ここで力を示さなければ、後輩であるバルディが流派内で重要な位置を占めることになることを、認めてもらえることはない。
そして、おジョウさんが手加減していると思われても同様だ。
バルディが、実力を示し、おジョウさんを撃破すること。
そうでなければ剣術道場の後継候補予備としても、皆の可愛い娘のような、妹のような、おジョウさん、その婿としても、認められない。
道場は閉じた世界の面も持っている。
外聞はどうあれ、皆を納得させなければならない。
納得させられなければ、仮におジョウさんと結婚できたとしても、バルディは軽んじられることになるだろう。
それはだれにとっても不幸なこと。
改めて二人が向き直る。
得物は木剣。双方ともに、左右の手にやや短めの剣を。対魔物用の威力を求めたものではなく、対人向けの取り回し優先の装備だ。
修練中に多く使った形ではない。お互いに、相手の感覚をずらそうという意図があるだろう。
おジョウさんも本気だ。
その上でバルディが勝つと信じている。
でもあれでかなり負けず嫌いなので、簡単に負けるつもりもないだろう。
「両者ともによろしいな?」
ハン師範が声をかけるが、すでにバルディもおジョウさんも、お互いのことしか見ていない。
あまりに集中することは一距両疾流の流儀ではないが、一対一の力比べとなればこうなるのも仕方がないこと。
「はじめ!」
合図とともに剣が振るわれた。