剣初心者うさみ 112
「ディくん、この二日で何があったですの?」
身の回りの諸々を、バルディよりも、おジョウさんよりもはるかに手早く片づけて、食事の下ごしらえまで済ませたミーナが、修練するバルディを見て口に手を当てて驚いていた。
「時々急にうまくなることがありましたけれど、今回は今までの比ではないですの――あ、いえ、何でもないですの。忘れてですの」
「ごめんね、ミーナちゃん」
口にしている間に察したらしいミーナは質問を取り下げた。
梅組のミーナに対しては流派の秘伝は口にできない。
ハン師範に話しが通っていなければこの場にいるのもよろしくないはずだ。
身内となることが内定しているから、察するところまではギリギリ許容されているといったところだろう。
一距両疾流の重要機密の存在が知られては、何のために荘園のそれも奥の人目のつかない場所で修練を行っているのかわからない。
幸い、ミーナは機密の扱いは修めているので余人と比べればまだしもマシだ。
見ない聞かない言わない。先ほど口に出してしまったのは失敗だが、持ち直したので許された。
「ただ、これの調子ですと、わたくしでは修練の相手を務められなくなりそうですの。参ったからには役に立たねばヤッテ家の名折れですの」
「気持ちはうれしいが、武家ではないよな、ヤッテ家」
「腕が上の間に挟まれていれば追いついてくるものだけど、今回はバルくんを集中的に鍛えている最中だからね……まあ任せて、そこをうまくやるのはあたしの役目よ」
「というより、心配するほどかな?」
バルディの感覚では、ミーナの脅威はそう簡単に置いていけるものではない――。
――と思っていたのだが。
「封殺されたですの」
「前より見えるな」
一対一でバルディ自身には意外な結果が出た。
ミーナの動きがよく見える。
狙いも読める。
見えて読めれば対応できる。
ミーナの売りは瞬発力とそれを発揮する時機をつかむ巧みさである。
前者は読まれてしまえば、また見えていれば対応可能であるし、そうなると後者は発揮できない。
原因を求めるならば、魔物を夜一年分相手にしてきたせいだと思われる。
前提として、魔物は人類よりも身体能力が高いのだ。
人の知恵はない代わりに、数が増えるので厄介さも増えていく。
そしてミーナの動きそのものは若葉組の間組んでいたことで慣れている。
それはお互いさまではあるが、バルディは一息に経験を積んで変化していた。
扱う得物も同程度の長さの剣二本から、片手両手両用の一本を軸に短めの剣をさらに二本、加えて短剣を多数というマシマシ装備に変わっている。
これほど変わると別人を相手にしているのに近いのかもしれない。
「これはちょっと悔しいですの。ちょっとバルディボコるですの」
「お、やっちゃう?」
「は、話せばわかる」
二対一の修練が始まった。