剣初心者うさみ 109
「剣の技の極致は何だと思う?」
「……あらゆるものを斬れる技ですか?」
二つのスキルを合わせたスキルを身につけるため、まずは魔法を斬るスキルと甲冑を斬るスキルを覚えるところから修練を再開する中で、おジョウさんが問いを投げかけてきた。
剣を使ってどうする、ではなく。
剣の技を極めるとなると、今やっていることも考えれば、何でも斬ることができることではないだろうか。
バルディがそう考えて答えると、おジョウさんがにんまりと笑う。
「もう一歩先。斬りたいものだけを斬る、よ」
この笑い方は、自分も同じ失敗をした経験があった時のものだ。わりとよく見る。
師範に同じように問われ、同じように返されたのだろう。
「斬りたいものだけ、ですか」
「そう。ただ、あたしはそこまでたどり着いていないわ。あらゆるものを斬るのもね。だから手本をみせることはできないけれど」
何でも斬ることができる前提で、斬りたくないものは斬らないよう選ぶことができるという技術があるのだという。
それはたしかに、できれば驚くべきことだとは思うが。
「悪霊に取りつかれた人を斬って悪霊だけ払ったり、人質ごと斬って悪人だけ倒したりすることができれば便利でしょうね」
「便利とかそういう域のの話なんですかそれは」
実力が足りないためか、想像がつかない話である。
「ただ、そういうものがあるということを知っておいて欲しいの。そしてそれはまだ先だろうけれど、バルくんなら辿り着けると。一か月の猶予は、この修練場を使えば三十年分の夜に相当するのだから、もしかしたら今回のうちに手が届くかもね」
「そう思いますか?」
「この夢の修練場が常識の外のものだということはわかるでしょう? そういうものは軽々しくは使えないし、使わないわ。だからこの機会に、できるだけのことは貪欲に、手を伸ばして、飲み込んで、喰らいつくして、もらいたいのよ」
それは、いや、そうならば、バルディに修練場を使わせてよかったのか、そういう思いが沸いてしまう。
秘伝であろうとは思っていたが改めて考えると、それを一か月も使わせてもらえるというのは破格の扱いだろう。
「あたしたちは、バルくんをそれだけ重要に考えていて、あたしは大事に思っていると受け取ってくれたら嬉しいわ」
「あ、ありがとうございます。私もです」
「もう。本気で言っているんだけどな」
正面から好意を示されると照れるのでさっと流すことが多いバルディだった。