剣初心者うさみ 98
スキルには自らの行動で身につくもの、スキルを鍛えることで派生するもの、クラスを鍛えることで覚えるものがある。
その境界を厳密に区別することは例の眼鏡でも使って情報を蓄積しなければ難しいだろうが、少なくとも二つ目と三つ目は使用者を調べることである程度類推できる。
覚えた時にスキル名が頭に浮かぶので、道場のように人数を集められる場所ならば、経験則から特定しているものもそれなりにあるだろう。
さて、剣スキル、あるいは剣士系クラスによって獲得するスキルは、当然ながら剣の扱いに関わるものが多い。
特に多いのは能動系と呼ばれる、いわゆる技だ。
なんとか剣、なになに斬り、うんたらソード、秘剣なにがし、どうたらの構え、などいう名前がついているものが多く、使用すると決まった動きをなぞってくれる。
そのほかには足さばきに関するものや呼吸法など剣そのものではないが重要な、補助的あるいは基礎的なものや、剣の整備、目利きといったものもある。
受動系と呼ばれる能力向上スキルや威力が向上するスキルなども。
能動系は使用すれば鍛えられるが、受動系は関与する行動をとることで鍛えられる、といわれている。
取得したスキルを鍛えるには、スキルを使用することがひとつ。そしてレベルを上げるのと同様に、魔物などと戦い、倒すことがひとつ。
前者は一つの行動で複数のスキルを鍛えられることもある。道場などではそのための修練法をそれぞれ持っており、例えば一距両疾流の球打ちの修練でも、【回避】【見切り】【切り払い】【動体視】【身体感覚】【投擲】【剣】などを一連の流れの中で鍛えることができる。
後者は、殺した際にその戦いの中で使用した能動系スキルと、関わった受動系スキルに均等に割り振られることになるらしい。
もちろん、使用した時にも前者の分鍛えられているが、それは置いておいて。
これはより強力な相手を殺す際の方がより多く鍛えられ、また実力差、正確にはレベル差が大きいほど以下同文。
さらに不利な状況が重なっているとますます多くなるという。
ただ、均等に割り振られるというのが曲者で、受動系スキルを覚えてしまうとそちらにも割り振られてしまうため、特別鍛えたいスキルを狙って鍛えるのが難しく、また一つ一つのスキルの成長は頭打ちになっていく。
だからこそ前者のスキルの使用による成長、そのための鍛錬が重要になってくるわけだが、それも時間には限りがあるために限界がある。
例外が飛び級であるが、これはあくまで珍しい例外だ。普通なら。
スキルは過去の天才の後を追う形であるわけであるので、普通は飛び級が起きる前にスキルが上がる。
しかし、夢の修練場はこの例外を引き起こす。
目覚めた時点でスキルもクラスもレベルも寝た時のものに戻ってしまうし、改めて夢の修練場に入った時も現実の能力に準拠する。
ゼロからではないにしろ、一度失い鍛えなおさねばならない。
あるいは、繰り返し鍛えなおすことができる。
スキルという特権を失うようなことでもない限りありえない特別な環境である。
また、スキルがなくてもスキルを再現できるようにならなければ、この環境を十全に生かすことはできないだろう。
さらにあくまで夢の中。体で覚えるということはできない。
だいたいこんな感じ、というだけでは再現できない。それほどの才は残念ながら持っていない。全く見当もつかない状態からよりはマシだろうが、それでは極めて不完全な劣化どまりにしかならないだろう。
それでは足りない。
少なくとも、同じ修練をしている相手に勝とうというにはまるで足りない。
なので、考え、覚え、自らの意志と思考で体の全てを支配下に置き、動かして。
徹底的にスキルを分析することで効率を上げる。
というのが、バルディの夢の修練場内での座学を受けての結論である。
ひと月の間、おジョウさんからの教えを受けながら、おジョウさん以上に成長する、そのために。