剣初心者うさみ 97
「この修練法は効果は高いけれど、そのまま起きてこなくなる人もいたらしいわ」
「ふぁ?」
死ぬほどつらい修練、というか死ぬ修練である夢の修練場。
バルディが一度は一人で、そして現実に戻って生を実感し、二度目である今をおジョウさんと二人で挑んでいるわけであるが。
休憩中にぽろっとおジョウさんがこぼした言葉に、バルディは思わず喉から変なお音を漏らした。
「夢で死んだことを実際に死んだのと誤解してそのまま死ぬそうよ。……あ、もちろん、バルくんは大丈夫だと信じていたのよ?」
「いや……先に知りたかった事実ですねそれ。言えなかったのでしょうけど」
信じていれば何をしてもいいわけではないと思うバルディだったが、さらりと命を懸けていたのだと知らされると改めて恐ろしく……どうだろう? あまり恐ろしさは感じなかった。
夢の中で何度も死に、現実へ生還したことで感覚がおかしくなっているのかもしれない。
「あたしが大丈夫だったからね。心が弱かったり、目的や目標がなく、生きようとする意志が弱かったりする人だとだめらしいわ。それと、最初に大丈夫ならほぼずっと問題ないって。そうそう、あたしが知っている範囲ではみんな生きているからね」
「それはいいですが、伝聞なのは?」
「この修行場のことを引き継ぐときに教わったの」
「詳しく聞いてもいいやつですか?」
「いいけど、もうちょっと砕けてもいいのよ?」
「修練中はちょっと」
夢の修練場は一距両疾流、というより、シ家で継承しているのだという。
そして、一距両疾流では、師範代以上の役職に就くにはこの修練場を一度は超えて、一定以上の成果を出すか、実力をつけるかしなければならない。条件の一つであり、すべてではないが。
現在の管理者はハン師範とおジョウさんの二人で、ハン師範、師範代、おジョウさん、バルディの五人がおジョウさんが直接知っている挑戦者だそうで。先代や代官もおそらくそうだろうが、実際に確認はしていないため除外とのこと。
この構成からすると、バルディはすでに完全に身内扱いということだ。
光栄であるのと同時に責任も感じる。
ここまでした以上、そしてしてもらった以上、実を伴わせなければ。また理由が一つ増えた。
それにしても。
「うさみは――」
「バルくん」
おジョウさんとバルディしかいないこの場であれば口にしてもよいかと思ったが、被せるように止められた。
バルディは、このような尋常ではないものはうさみが後ろに居るのではないかとにらんでいた。
あの小エルフは一距両疾流においてはっきりって浮いている存在だ。
そしてエルフは皆魔法使いであると聞くし、実際に魔法使いであると知っている。
魔法ならば、こんなでたらめともいえる修練場を用意できるのではないか、というより、魔法でなければ不可能だと、剣の街しか知らないバルディではあったが、そのように感じている。
「それはまたね。怒らないだろうけど、いい気はしないでしょうし」
「わかりました」
おジョウさんはうさみが大好きなので、本人がいないところで話すのをよしとしないようである。
だが、否定もしなかった。
ただ今ではないと。そういうことだと解釈した。




