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剣初心者うさみ 94

 荘園に求められるものはいくつかある。


 まずは荘園の主の収入源。

 そしてその収入を活用して、武力を維持し、必要な時に供出すること。


 これは剣の街以外でも多くの場所で共通するものだ。

 土地は財源であり、食料の供給拠点だ。

 これを確保、維持することで養える人口が決まる。

 人口の一部が戦力となり、外敵から街を、国を、人類の生存圏を守るのだ。


 だが、荘園の維持にも費用と戦力が必要である。

 なぜなら、魔物が存在するからだ。


 魔物は人類の敵であり、森や山など人類が寄り付かない場所に多くいる。そういった危険地帯から生存圏を守るために前線を構築し、日夜戦っているわけだが、その内側にも魔物は存在する。

 危険度は比較的低い。といっても、最前線との比較であるが。

 その比較的危険でない魔物も、群れとなれば危険度が跳ね上がるし、強力な個体が生まれることもあるため、馬鹿にできない。


 その魔物から身を守るために、壁を立てて街を作るわけだが、荘園はその外に存在する。

 壁は農地も、農地を耕す農民も、守ってくれないのだ。それほどの防衛施設を作り上げるのは予算から見ても不可能だし、仮に壁で囲えたとしても、どこからか入り込み内側で繁殖するのである。完全に遮断することができないのだ。

 農地という広大かつエサが多い場所を


 ならばどうするかというと、危険をほどほどに許容して人力で守るのである。

 普段から魔物を間引き、強力な個体が出れば戦力を送り込み対処し、住居は最低限の防衛施設と警備でしのぐのである。

 これで街の中ほどではないが、きちんと仕組みが機能していれば簡単には村が滅んだりしない、程度には身を守れる。もちろん簡単ではない異常事態が起きれば滅ぶし、きちんと機能させることが大変な労力となるのだが。


 多くの人口を支えるには農地が必要で、そのために農地を耕す人員と、守る人員が必要。

 加えてそれらを管理する機構の構築と維持、これが荘園領主の、あるいはその代官に求められる仕事である。


 さらに農民と一口に言っても、人が生活するには必要な物資は多々ある。衣食住娯楽すべてが自給できるわけではないし、購入する方が効率が良い物資も多い。

 一方でちょっとしたことはその場で済ませられる方がよいものもある。

 例えば村に鍛冶師が居れば便利だが、規模によっては過剰になるだろう。

 住まうなら一家が生活できるよう、一時招くならその手配も必要だ。

 そういうことも管理しなければならない。



 とここまではどこも似たような案件であるが、一距両疾流の荘園ではもう一つ課題がある。

 それは、道場の一部としての機能の維持と、住民への一距両疾流の指導環境の維持である。


 現在のバルディたちのように、外に漏らしたくない修練などを行う場合、荘園内の施設を使用する。

 秘密を維持するのに部外者を基本入れない荘園は都合がいいのだ。

 また、荘園にある修練に使う山の維持管理。

 魔物が入り込んだりしていないか気を配る必要がある。

 他には野球場の整備もだ。門下生の重要な娯楽の源だ。


 そして、住民全てが一距両疾流を学ぶ荘園内の村での指導である。


 住民全て。

 これは引退した内弟子である松組の一部に荘園に居を構えさせたことから始まったものらしい。

 剣を学ぶことで護身となり、同じ流派であることで一体感を持たせ、流派の秘密を守りやすくもなる。

 実際に魔物と対峙することもありうることで、街の道場とはまた少し違った状況にある彼らを、流派から乖離させることなく調整するのだ。


 彼らと、そして街の道場の門下生、さらに直属の魔物狩り徒党がいるので、同規模の荘園の中では戦力は大きい。

 だがそれだけ無理をしているということでもある。

 しわ寄せが予算に来るか、各個人に来るかはともかく、その無理を通してうまくやることを代官は求められる。



「これは思っていた以上に大仕事ですね」

「かかか。早う楽させてくれよ」


 概要を聞いただけで多難であるとわかる。

 他所の街では支配階級が必ずしも最強の戦士ではないということもわかる。管理業務と鍛錬を両立するのは大変だろう。

 とはいえ、幸いなのは今の代官が上手くやっていることだ。

 先達の蓄積してきたものを受け継ぐ時間があるというのは大変ありがたいことであると、バルディは思うのだった。

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