使い魔?うさみのご主人様 39
翌朝。
中途半端にうまくなったせいで、例の魔術に失敗しまくって回数を稼ぐ特訓をやると結構な魔力を消費してしまい、講義に支障が出るようになったので、最近は代わりに剣を振ったりしている時間。
今日に限ってはメルエールはうさみに話を聞いていた。
もちろん昨日の王族、フランクラン姫からの呼び出しの件である。
つまり、夜遊びしてたら見とがめられて、正当化するために言い逃れしてたら興味を持たれてしまったのだという。
その結果いろいろと聞き出され、ならやってみようと言われて、ゾンビ鬼を開催するようになったのだそうだ。
ここまでは呼び出しに応じる前に聞いていた。
しかし、呼び出された先では、それ以上に話が進んでいたように思われた。
妙に評価されていたし。
身辺調査までされていた。
あと囲うって何さ。
困る。
メルエールは明月男爵家の後継の予備である。
それも、使われる可能性が高い予備だ。
嫡男である弟が病に罹った。
一命はとりとめたが、静養を理由に領地に帰ることを許されるほど弱っていた。
明月男爵には子は一人しかいなかった。
もちろん、認知している子は、である。
万一があった際、跡取りがいなければ取りつぶしになる。
そのため自分が男爵の血を引くことすら知らなかった妾腹の娘を引っ張り出してきて予備に据えたのである。
弟が無事快癒すればメルエールは用済みだ。
それはいい。
しかしそうならなければ。
爵位を継ぐことになる。
弟の体調に左右されるために、極めて不安定な立場なのであった。
そのあたりのこともあのお姫様は、把握しているのだろう。
わざわざそれをこちらに知らせるためにああやってメルエールの情報を読み上げさせたのだ。
そうでもなければ本人の目の前で報告させるような真似はしないだろう。
ただ、そんな手間をかけてメルエールの何を求められているのか。
そんなのは決まっている。
「あんたね」
「なに?」
うっかり漏れた独り言にうさみが首をかしげて返事をするが、無視。
腕を組んで考えを続ける。
家は木っ端男爵、立場も面倒で邪魔扱い。
本人の能力は下の下。最近少しは上がってきているが、上澄みの人材を使える王族からすれば不要な程度でしかない。
あとはうさみしかない。
ほかに持っているものなどないのだ。
あのなんかものすごく偉そうで実際に偉いお姫様が気に入ったのは、メルエールの使い魔のうさみなのだ。
正確に言えばうさみの持つ知識だと思われる。
もしかしたらメルエールがうさみを御しており、それによって環境を改善してきたものと思っているのかもしれない。
実際には御しているなんてことはなく振り回されっぱなしで、そもそも使い魔ですらない。
今も知らないところで王族と関わりこうやって悩まされている。
このエルフの子どもがいなければこんな目に合うことはなかったのに。
とはいえ、いなかったら退学になっていたわけでもあり。
メルエールはもう、ためいきくらいしか出ないのだった。
「でもゾンビ鬼だけであんなに好意的になるものなの?」
フランクラン姫はメルエールを取り込むことを前提に話をしていた。
それほど求められるというのが、うさみの話を聞く限りでは、メルエールには理解できなかった。
うさみは魔術学院で教えていない知識と技術を使う。
魔術を使う能力も才能もないが、それ以上に異質な能力を持っている。
森を自在に歩いたり、神の話を語ったり、この世界の生物を、人間を語り、行動で証明してきた。
メルエールはそのおかげで、魔術が上達しどうにか講義についていけるようになった。
同じようにあの使い魔たちにもなにかして、実感できるほどの変化を与えたのだろう。
しかし、ゾンビ鬼だけでお姫様が欲しがるほどの実績になるのかというと、メルエールにはわからなかった。
もっとなにかやらかしていると考えたほうが自然である。
「メルちゃん様最近忘れてるけど、わたし使い魔だからわたしの言動はメルちゃん様の評価につながるんだよ」
「何が言いたいのよ?」
「わたしの日ごろの行いが良すぎて偉い人に気に入られちゃってごめんなさい」
「それはないわ」
流石にそれはないだろう。
メルエールはうさみの行動を改めて思い出したが、その上でそう結論づけた。
「ほら、なにをやったのか白状なさい」
「知らないってば」