剣初心者うさみ 87
「最後の一つ。おと……師範が特別訓練をするから覚悟しておけって」
「特別訓練、となると」
「残念だけどミーナがいるところでは話せないわ。というよりこれについてはあたしも全部把握しているわけじゃないのよね」
「そうですの。しかたないですの」
ミーナはあっさり引き下がった。
特別訓練で内容も伏せるということは秘伝ということだろう。
秘伝というのは本来存在自体が秘密なので、こうして今から教えるよということを知られるのも本来ならマズい。
だがおジョウさんはほのめかすまでは許容範囲と判断したようだ。
しかしなるほど、常識的に考えれば無茶な期間だったが、そうやってハン大先生も協力してくれるのであればかなうだろうか。いや、成し遂げなければならない。
感情としても義理としても意思としても道理としても都合としても。
欲張りな話だがいまさらおジョウさんとの関係をなかったことにするのは嫌だった。
今後嫉妬されたり贔屓と見られたり二股野郎と罵られたりするかもしれない。
だがそれらは実力をつけ、それを示せば黙らせることができるものだ。二股以外。
何を置いても強くなり、そしてシ家と一距両疾流に様々に貢献することで実績を積めばいい。
逆にそれができなければ二股しようとして失敗した身の程知らずで実力もない奴という風評を受けることになるのでますますやる気が出るというものだ。
なので協力してもらえるというならばどこまでも突き進む。
そうバルディは心に決めたのである。
特別訓練、おそらくはとんでもなく厳しいものになるのだろう。楽しみな部分もあるが恐ろしさもある。
それでも行けるところまで、いやそれを越えていかねばならぬ。
「改めて三つ、まとめると。荘園管理の勉強、あたしより強くなること、そのための手段の一部として師範の訓練を受けること。大変だけど、バルくん……ううん、バルくんならきっとやり遂げられると信じてるからね」
「全力を尽くします」
「ディくん、失敗したら慰めてあげるから気楽にやるといいですの。ふふふ」
「ダメー! あたしの婿にするんだから!」
おジョウさんとミーナは基本的には仲が良い。基本的には。
その後、その日は慣らしと確認のためしておジョウさん基準でやや軽めの修練を行った。
その一環でおジョウさんと一対一で立ち会った。木剣ではあったが。
もちろんボロボロにされた。
一対一の経験が少ないこともあるが、なにより単純な実力差だ。
残り一か月。
もちろんと言わざるを得ない差。
バルディは課題を確認したのだった。