剣初心者うさみ 85
その翌日。
同時に、バルディの住まいが一距両疾流道場へと変わる日。
家族に見送られて道場へ着くと、ミーナが待っていた。
「ディくん、師範から、ついたら荷物下ろさずそのまま荘園に迎え来い、とのことですの」
「荘園に?」
「ですの。一か月ほど、あちらで寝泊まりすることになるそうですの。荷物、手伝うですの。今日はわたくしお話だけだったですの」
「あ、助かる。ありがとう、ミーナ」
どうも、道場ではなく荘園での生活になるようだ。
必要があって集中的に鍛えていただけるという話になっているのでつまりそういうことだろう。
ミーナから伝えさせのはヤッテ家関連で用があって話しをしたついでか、ミーナへの配慮、おそらく両方。
街中で大した距離もなかったため、多少無理して荷物を運んできていたバルディは、ミーナの申し出をありがたく受け、一緒に荘園まで向かうことにした。
「バルくんにはまず三つ、やってもらうことがあります」
ミーナとイチャイチャしながらついた荘園では、おジョウさんが待っていた。
にっこりとバルディとミーナに微笑むおジョウさんにはいつも以上の迫力があった。
「三つですの? お姉さまとわたくしとの子作りと、もう一つは――」
「それはもうちょっとあと!」
小首をかしげるミーナの言葉を食い気味で止めるおジョウさん。
顔が赤い。
「荘園の管理の仕事をいただけるという話でしたね」
「そう。それがひとつ。帳簿の仕事と並行して将来的には任せたいとのことよ。どっちに転んでもね」
小さいとはいえ荘園は荘園。シ家の当主は領主である。
現在その管理は古株の門下生が代官として就いているが、そろそろ引退を見据える年齢であった。世代としては現当主と先代の間にあたる。
嫡男であるケンが無事成長した場合、つまり十年と少し先になるわけだが、今の代官がそれまで続けるのは年齢的に厳しい。
中継ぎは必要になってくる。
最悪ハン大先生が自ら働けばいいが、有事あれば動かなければいけない当主以外に人員は欲しい。
そこで適当と考えられたのがバルディである。
計数ができ、帳簿の仕事も誠実に行ってきた実績もある。
おジョウさんとの結婚がかなってもそうならなくても、ちょうどいい役目である。
また、巡り悪くおジョウさんかその婿がシ家の当主となることになってしまった場合も、必要な知識であり、腐ることはない。
後継者教育の一環であると同時にそうならなくても相応の立場を与えるという宣言でもある。
つまり大出世万歳。
バルディ、齢十五にして食い扶持の保証を得る、といったところか。
とはいえ、それにふさわしい実力をつけなければならない。仕事にしても、剣にしても。




