剣初心者うさみ 84
部屋の入口の外に気配を感じ、三人は話を切り上げ立ち上がり、迎える態勢に。
するとおジョウさんが戸を開き脇に控えてから、ハン大先生が入ってくる。
「おう。ミーナ、チャロン、バルディ、これで若葉組は卒業だな、おめでとう」
「ありがとうございます」
ハン大先生が席に着きつつ仕草で座るよう示しながら祝いの言葉を口にすると、三人は頭を下げて声を揃えて礼を返し、席に着きなおした。
続いておジョウさんがハン大先生の脇につき。すました顔で目配せを送ってくるので三人の緊張は少しほぐれた。
「さて、それでは最後の確認だ。といっても、後からでも変えて構わんが。松竹梅の三つの組いずれに属するかだな。ジョウ」
「はい。ミーナが梅組、チャロンくんが竹組、バルくんが松組で希望しています。改めて確認するけれど、梅組は街中での護身を中心に。竹組は実戦に主眼を。松組は加えて内弟子として、道場の運営に関わることと、同時にシ家の家臣としても扱われることになるわ。大丈夫かしら?」
「はい」
また三人、声を揃えて返す。
すでに何度も説明を受けて選んだことだ。この土壇場で迷うこともないし、内弟子の松組でなければ組を変更することはできるので今迷う理由はなおさらない。
なので言葉通りの確認である。
「よし。改めて歓迎しよう。……普通十五といえば一人前として数えられるが、うちでは基礎ばかり鍛えてきたからもうしばらくかかる。だがその基礎がお前たちの今後を支えてくれるだろう。励めよ」
「はい!」
三度声を揃える。
走り込みから二対一の打ち合いまでが基礎。
木剣しか触らせてもらっていないし実戦も経験していない。対外試合は年一の剣術大会子どもの部のみ、これも自由参加である。
地道な修練を乗り越えられたのは、二人の仲間と、野球などのちょっとした楽しみ、おいしいおやつに先生方とおジョウさんの人柄のおかげだ。
そしてこれからそうして積み上げたものを形にし、生計を立てていくことになる。
「うむ。まあ小難しいことはまたでいい。ささやかだが祝いの宴だ。今日は楽しめ」
「ありがとうございます!」
ハン大先生が合図すると、おジョウさんが動いて戸を開く。
その向こうでは、奥様と今日の料理担当の先輩が、祝いの料理を運んできてくれていた。
四歳になるケンもお手伝いしている。
最近は皆の真似をするのが楽しいらしく、いろいろなことをやりたがるのだ。
こうして一つの節目を祝う宴を、バルディたちは大いに楽しんだ。
途中ハン大先生がバルディに絡みはじめたのを奥様が頭をはたいて連れていったり、特別な時しか食べられない祝い料理を前に興味津々のケンに、皆で料理を食べさせてやったり、おジョウさんとミーナがバルディを挟み、チャロンが俺がいないところでやってくれと苦言を呈したり、兄弟子たちが代わる代わる祝いの名目で料理をつまみに来たりと、短い時間だったが多くの思い出ができたのだった。




