剣初心者うさみ 83
「お前らは、これからか」
「ですの」
「うん」
ミーナとバルディは、現状二つの道がある。正確には全部ほっぽり出す道もあるが、二人ともそれは望んでいないため、一旦除外してある。
道の一つはバルディがおジョウさんの婿となる道。
この場合、ミーナは梅組として道場へ通いつつ、ヤッテ家使用人として働くことになる。
梅組は戦いを生業としない本職を持つものが通う組であり、女性の比率が最も高い組である。若葉組と時間の使い方はさほど変わらないが、人によってどれだけ打ちこむかの差が最も激しい組だ。水際の護衛を兼ねた直属という立場にはなれなかったので、こちらで十分ということだ。
そして将来、シ家嫡男ケンの成長次第で、異なる立場でバルディと付き合うことになる。
最終的にはケンが無事成長するか、流派を継げるだけの才を見せるかなどといった条件で落ち着く形は変わるが、ミーナが側妻となるのは既定路線である。
婿が側妻を持つのは風当たりが強そうだが、そこは愛とかそんな感じで何とかする。
ヤッテ家としては、道場と近すぎず遠すぎない形で縁を結びたいので、使用人と有力な弟子、ないし傍流との縁戚というのは距離感としては適当なところだ。もともと使用人を道場へ送り込んでいるのはそういう目的もある。
もちろん表向きは自由恋愛の結果そうなったという名目である。
特定の道場と懇意にしすぎている、とみられるのはヤッテ家の立場上よろしくないので、婚活目当てでやっていることではない、ということになっているし、実際に道場へ入門させている使用人全てがその道場で結婚相手を見つけるわけでもない。
あわよくば、程度の狙いである。
もう一つはバルディがおジョウさんの婿になれなかった道。
その場合でもバルディはシ家に雇用されることになるので、体面が悪いことを除けば問題はない。そして体面は婿&側妻だって負けてはいない。
ミーナは普通にバルディと結婚して、ヤッテ家とガン屋の縁故を持ったシ家の家人となるか、シ家が手放すようなことがあればヤッテ家に拾われるかもしれない。
先に述べたようにバルディ本人は評価されているため、そうなる可能性はなくはないのだ。
しかし、シ家も一距両疾流の経理を握っているバルディを手放す気はない。
早くから取り込みをかけてきたのだ。おジョウさんのことは予定外だが想定内でありミーナのこともいえとしては許容範囲である。
そして当然、両家とも互いの家の関係を悪くしたいとは思っていないので、そうなるとすればバルディの自由意思でという建前になるだろう。
ひとまずそうなる可能性は低い。
一距両疾流の機密の手がかりを持った状態で近くの家に入るくらいなら出奔した方がまだ安心できるからだ。
というわけで、バルディの将来は二股男か婿入り失敗男のどちらかであり、ミーナは周辺の都合に合わせて多少変化はあるがバルディが娶る流れは変わらない。
この後よほどの破局があれば別だが、二股を超える難題はそうそうあるまい。
「改めて考えると大変だろうが、がんばれよ、バルディ」
「チャロンもな」
「ですの」
若葉組での最後の会話はこれで終わった。