剣初心者うさみ 80
「しかしバルディがこんなクズ野郎に育つとは思わなかったな」
「クズって。ひどくない?」
チャロンがニヤニヤしながらからかってくるので、バルディは弱弱しく言い返した。
今日は三人の若葉組卒業と今後についての話が行われるため、修練終了後身を清めて集合予定、というわけでミーナと別行動。
そんなとき、不本意にしてここのところ定番化しているバルディいじりのネタがこれである。
「まさかバルディが二股するとはなあ」
「ちが……わないけれども!」
二股男、女の敵など、ひどいあだ名をつけられたが事実なので否定できない。
とはいえ冗談になる程度に落ち着いているので大丈夫。大丈夫だ。問題ない。
「うさみをよく見ているけど、また増やすのか?」
「だからそれは違うって知っているだろ。それにあの人に性欲はちょっと向かないし」
うさみを見ているのは彼女の素振りを観察するためであって、それ以上のことはないと知っているのにこうして言及するのは、男女の関係的な意味で狙っていると思われないためだ。立案者はおジョウさん。
うさみの外見は人間基準で考えればはっきりと子どもなのでかわいらしいと思ってもそれだけである。愛玩枠であって性的な対象にはならない。世の中にはそうでない人もいると聞くが、バルディはつるんぺたんすとんの子どもより、デコボコが大きい方がいい。ってそんな話は置いておいて。
剣の腕が上がれば上がるほど、うさみの異様に遅い素振りの完成度がわかるようになり、同時にわからなくなる。果てはあるのか、底はあるのか、見えないままだ。
おかげでバルディと、そしてバルディと共に鍛えているミーナ、チャロンの剣の腕は成長を続けているのだが、最近は一つの壁に当たっていて、伸び悩んでいた。
さて、そんなうさみだが、相変わらず門下生とは距離があるのは変わらない。
ただ、バルディたちに対しては若干違う。
なぜかと言えば、おジョウさんである。
おジョウさんがうさみを大好きなのは周知であり、うさみもおジョウさんのお願いをほとんど断らない。そんな仲だ。
そのおジョウさんの最有力というかほぼ確定の婿候補であるバルディ。
二股のバルディ。
うさみがバルディを見る目は生暖かかった。
経緯としては、バルディがおジョウさんに絡めとられた形なのだが、それはそれとして二股も事実である。
この点について義父(内定)であるハン先生がバルディをぶん殴ったあと、それはそれとしてすまんと謝るようなややこしい事情があった。
そして義母(内定)である奥さんと同じ、生暖かい目がうさみから向けられるのだ。
あえて言葉にするなら、事情は理解するけどちょっと引くわ、といったところだろうか。
やはり二股はご家族の印象がよくない。仕方ない。
「まあいいじゃないか、美人二人も」
「お前そういうこと言ったら惚気るぞいいのか」
「わはは、それは勘弁」
おジョウさんは美人であることと同時にかわいらしさを併せ持ち、いくつかある欠点も愛嬌として受け入れてしまいたくなる、そんな人だ。
動ける女性特有のしなやかさと、普段の生活からくるのであろう気配りの細やかさも目を離せなくなる要因で。
ついでに言うとバルディたちより二回りは強い。
経緯はアレだったが、今ではバルディもベタ惚れである。
そして何を隠そうもう一人、ミーナも美しく成長した。ただ、つり目気味で気が強そうに見えるのに表情があまり動かさないので一般受けはしにくいようだ。
ただそれも仕事のときだけで私生活では表情も緩む。そんな姿を見ることができる者は限られており、その立場に居られることは幸福以外のなんでもない。
さらにお仕着せの使用人服だとわかりにくいが、出るところと引っ込んでいるところとその線がホントもう。身長も含めおジョウさんより一回り大きいのだ。
こちらも今となっては別れるなど考えられないくらいに惚れている。
バルディは改めて考えたらクズ野郎だな、否定できないと自覚せざるを得なかった。
こんなのどうしようもない。
なおこうしてからかってくるチャロンは幼馴染とお付き合いしており順調だそうだ。お付き合いはともかく順風満帆というのはうらやましい限りである。




