剣初心者うさみ 79
右からチャロンが、左からミーナが仕掛けてくる。
絶妙に間をずらした波状攻撃、各々二本の木剣を持っているのでさらに倍。
二対一の攻略法は片方を障害物として使うことだが相手もそれは熟知しており容易ではない。
また、一方と鍔迫り合いにでもなってしまえばもう一方に致命的な隙を晒してしまうことになるため、避けなければならない。
だからこそとにかく移動することで有利な状況を作り続けなければ、同格の相手二人を相手にするのは無理がある。
つまるところ挟まれた時点で失敗している。
打開するには多少は無茶して推し通るしかあるまい。
バルディは後ろを気にするそぶりを見せてからミーナに突っ込み退くと見て踏み込んできていたミーナは焦り重心が崩れたところをさらにバルディが体ごとぶつかる勢いで突いたがそれでも柔軟性と身体感覚は最も高いミーナであるのでこれを柔らかく受け止めようとしたところで想定以上に踏み込んできたバルディに間合いを潰されたので跳ね飛ぶように後ろに跳んだことでバルディに包囲は解かれ振り向きざまチャロンを牽制したところ読まれていたのか綺麗に受け止められたので地面を転がるようにして間合いを外し立ち上がりざまにもどってきたミーナにぶん殴られた。負け。
と思った直後チャロンがミーナに襲い掛かるがバルディを盾にかわされたところでバルディが足元を払ったが脛甲で受けつつ後ろに下がり、ここからミーナ片足負傷設定でミーナ対バルディ・チャロンが再開された。
四年が過ぎて、バルディたちは十五歳になっていた。
修練の内容は基礎に加えて二対一の木剣による打ち合いが中心だ。球打ちの派生である。
球打ちのように移動を制限されるものと、自由に移動出来るもの、複数の組が同時に行い、しっちゃかめっちゃかな中で打ち合うもの、山中を移動しながら打ち合うものなど種類はいくつかあるが、二対一というのが基本なのは変わらない。
移動を制限されればただでさえ不利なのがさらに不利になるし、自由に移動可能でもその運動量は一人側が大きくなるのは当たり前、複数の組で行う場合お互いがぶつかり合わないようにしなければならないため両者とも単純な集中を許さない。
複雑で痛いし疲れるし瞬時の判断も戦術も問われるしでずいぶん激しい修練になってきたものだ。
また、一本取った後継続するものと感想戦を行うものもあるが、経験の蓄積と一手一手の吟味という目的の違いでありどちらも重要な修練だ。
根っこの部分には、窮地を生き延びること、仲間と連携することという主題があり、その上で周辺環境などの課題が追加され、もっと先、若葉組を卒業したら外から球を投げつけられるらしい。
そんな修練を、成長したバルディたちは日々こなしていた。
同じ修練をしていてもそれぞれ違う成長を遂げたのは面白い。男女差、種族差、もろもろ理由はある。
バルディは背が伸びて三人の中では最も高くなった。
筋肉も、おジョウさんに「いい感じ」と褒められるくらいついて、重かった鎧も重さよりも可動範囲の方を気になるようになった。
また、単純な剣の腕はやや優勢とはいえ概ね横並びだが、スキルの裏をつくという文字通り裏技を覚え、対剣士だと有利に立ち回ることができる。
体重が最も重いのはチャロンだ。
筋肉の鎧と呼びたくなるがっしりした体格に育ち、三人の中では柔軟性では劣るが一般人(基準は入門直後の人たち)と比べれば断然柔らかい。
バルディが全力で体当たりしても先に体勢を崩していなければ動じなくなっている。 更にその重厚さで体力も一番で、身長をより長い剣を使うことで補っても最後まで一番元気でいる。
最も柔軟で機敏なのはミーナだ。
女性としては高めの身長だがそんなことは関係ないと流れるように動き回り翻弄してくる。かと思うと跳躍で間合いを操る。
瞬発力が最も高く、体重も軽く柔軟という武器を生かして立ち回るので、敵にすれば恐ろしく、味方にすれば心強い。まあそれは皆同じだが、
ただ、一つ問題があり、胸が大きくなってきたことを悩んでいた。
おジョウさん経由でうさみに相談していたのをうっかり耳にしたバルディは聞かなかったことにしている。
三者三様に育った三人。
これから新たな環境に身を置くことになる。