剣初心者うさみ 77
「それはもちろん」
と、バルディは、ミーナの自分を好いているのかという問いに答えた。
なぜか、ミーナが足を止めたのでバルディも立ち止まり、振り返って続ける。
「一年以上一緒にやってきた仲間で友人だもの」
「……ですわよねー、ですの」
ミーナが動き出し、再び横に並んだので歩みを再開する。
実のところ、この時バルディはごまかしていた。
嘘はついていない。
だが、好いているのかと尋ねられたとき、まず連想したのは先日のおジョウさんとのやり取りだった。
婿候補の候補とうっかり知らされた際のことだ。
恋愛とかまだよくわからない。
おジョウさんにしてもミーナにしても、好ましい人物であることは確かだし今後とも仲良くしていきたいのは正直な想いである。
だがチャロンや師範代、男性の先輩方に対しても同じように感じる。
一つ違うのは異性であるという点で、時折面喰ったり戸惑うことはある。
とはいえ姉妹がいる身でもあり、受け流し方もそれなりに身に着けている。
つまるところやはりよくわからない。
であるので、ミーナの言葉を意図して曲解し、ごまかしたのだった。
これならミーナの意図に関わらず、そういうことになるだろう。
結果として間違ってはいなかったと思う。
ミーナは顔を隠すのをやめたし、いつもの顔だ。いや、やはりすこし赤みを帯びているようにも?
いつもと違い、つば広帽子の影になっているので気のせいかもしれない。まあ体調が悪いならそう言ってくるだろうし、照れているのなら指摘するのは逆効果だ。
そう考えて、バルディは話題を本題へと戻した。
最初に向かう店について、歩きながら資料を見るのは危ないので口頭で伝えるのだ。
「はんぶんこ、ですの!?」
「うん。それなら倍の種類を試せるでしょう」
姉から教えられた秘策とは、つまるところ二人で異なるものを注文し、それぞれを半分ずつ食べるというものだった。
目から鱗というやつだ。
一人前出されれば一人で食べるのが普通だとバルディは思っていたので、この方法は画期的かつ効果的だと感じられた。
単純に考えて、一つの店当たりの種類なり、回る軒数なりを倍にできるのだ。
今回の下調べという目的にぴったりで、聞かされた時には深く感心したものだ。
姉たちは伊達に歳をとっていない。
つい口に出したせいでひどい目に遭ったが。
「ミーナ?」
それにしても、今日はよくミーナが固まる日であった。